違反転用をするとどうなる? 農地法の罰則について行政書士が解説

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農地を転用したり、転用するために農地を売買したりするときには、原則として都道府県知事の許可を受けなければなりません。また、許可を受けた後に転用目的を変更する場合には、事業計画の変更の手続きが必要になります。

この許可を受けないで無断で農地を転用した場合や、許可申請時に提出した事業計画どおりに転用していない場合には、農地法に違反することになり、工事の中止や原状回復などの指導・命令がなされることになります。

また、悪質な事案については刑事訴訟法による告発が行われ、罰則が適用される可能性もあります。違反転用に対する罰則は、3年以下の懲役又は300万円(法人の場合1億円)以下の罰金となっています。十分に気をつけていただきたいと思います。

違反転用の発覚と役所による指導

違反転用は、農業委員会によるパトロールや誰かの通報によって発覚することもあれば、当事者が何らかのきっかけにより、自らその事実に気づくこともあります。農地法の定めを知らずに転用してしまったというケースが多いですが、悪意で行っているケースもあります。

当事者が違反転用の事実に気づくパターンとしては、相続が発生したときや、他の農地を転用しようとしたとき、あるいはその土地で許認可が必要な事業を実施しようとしたときなどが考えられます。

具体的には、被相続人が第三者に対して無許可で農地を貸していたことが判明するケース、他の農地を転用しようと手続きをした際に役所から指摘されるケース、営業の許可を申請する際に土地の地目が農地であることに気づくケースなどが挙げられます。

どのようなケースであっても、転用行為から時間が経過すればするほど、原状回復は難しくなります。そのため、役所としては、早期発見のために啓発活動やパトロールを重視して実施しています。

違反転用の発覚件数と是正件数

ところで、この違反転用ですが、いったいどのくらいの件数が把握されているのでしょうか。次の表は全国の役所が1年間に新たに発見した違反転用の件数を示したものです。(農林水産省農村振興局計画課調べ)

新たに発見した件数 うち当該年中に違反状態が是正されたもの 未是正のもの
原状回復 追認許可 その他
平成30年 3648 39 3131 4 3174 474
令和1年 3366 33 2920 1 2954 412
令和2年 4187 56 3760 109 3925 262

ちなみに、農地転用手続きの年間件数は、平成28年の少し古いデータにはなりますが、許可が76,677件、届出が69,973件で、合計146,650件となっています。つまり、正式な手続き件数の2~3%の件数の違反転用が、1年間に発覚していることになります。

様々な見方ができるかとは思いますが、年間に相当な数の違反転用が発覚しており、そのほとんどが役所の指導や命令によって、正常な状態に是正されていることが分かります。「やったもの勝ち」は許さないという役所の姿勢が見られます。

役所による是正の指導の実例

農林水産省の資料(「農地の違反転用に係る長期未是正案件の解消事例等について」)を読むと、役所の粘り強い指導によって、違反転用された農地が現状に回復された事例を知ることができます。

そのうちの1つ、発見から解消まで20年以上かかった事例を紹介します。以下は資料からの引用です。

違反転用者の属性 解体業・兼業農家を営む個人
転用の内容 資材置き場
農地区分・面積 農用地区域内農地(2,247㎡)
発見から解消までの期間 平成4年11月~平成30年5月
指導回数 是正の指導数十回、是正の勧告1回

【発生から解消までの経緯】

  • 兼業農家である違反転用者は、自己の解体事業で発生した建築資材を、所有する農地に廃棄。近隣農業者の苦情により違反転用が発覚した。
  • 農業委員会は、農地への原状回復を再三にわたり指導してきたが、違反転用者に農地法遵守の意識が低いことに加え、廃材の選別分類・撤去に多大な経費がかかることなどから、早急な解消にはつながらなかった。
  • 長年にわたり、違反転用者に対し、改善の要請を継続してきたことにより、少しずつではあるが、廃材を撤去してきたことに加え、町の固定資産税部局が農地課税から雑種地価税に変更したことにより税額が増加。これを機に違反転用者が税額負担の解消のため、農地の原状回復に動くこととなった。

農用地区域内農地での違反転用

上記の事例もそうですが、農振法に基づき市町村が指定する農用地区域内農地(青地農地)においては、違反転用に対する対応が他の農地に比べて厳しい傾向が見られます。周囲の農地に対する与える影響が大きいものであるからだと考えられます。

農林水産省の通知にも、勧告に従わない者に処分や命令を出すかどうかを検討する際には、その農地が「農用地区域内農地である場合には、特段の事情がない限りこれらの処分又は命令を行うことが適当である」旨が明記されています。

違反転用に対する命令・処分と適用される罰則

さて、ここからは違反転用が発覚した場合の役所の対応について、さらに具体的に解説します。まずは、その前提として、違反転用とはどのような行為を指すのか、その法律上の定義を確認してみましょう。

違反転用とはどのような行為を指すのか

農地法第51条第1項によれば、以下の行為が命令などの処分の対象となるものとされています。違反転用には、無断で農地を転用すること以外の行為が含まれることが分かります。

  • 許可を受けないで農地を転用すること
  • 許可を受けないで農地等を転用するために権利の設定・移転を行うこと
  • 転用許可に付した条件に違反すること
  • 違反転用者からその違反にかかわる工事等を請け負うこと
  • 虚偽等の不正な手段による許可を受けること

また、許可申請の際に提出した事業計画と異なる工事をしている場合には、事情聴取や現地調査が実施され、事業計画変更による転用目的実現の見込みの有無が検討されることになります。そして、転用目的の実現の見込みがあれば、事業計画変更の手続きが求められ、見込みがなければ違反転用と同じような扱いがされます。

行政指導による原状回復と追認許可

それでは、違反転用が発覚した際の役所の対応について、順を追って解説していきます。

役所は、違反転用事案を知ったときは、違反転用者に対し、期限を定めて是正するように指導を行います。すでに工事が終了して原状回復が困難な場合もありますが、原則は農地への復元が求められると考えてよいと思います。

原状回復をした上で、改めて適正な農地転用の手続きをすることで、追認許可が認められることがほとんどのケースです。もちろん、すでに建築物がある場合などは、原状回復による経済的損出は甚大です。どこまでの原状回復になるのか、あるいは原状回復なしの追認許可が認められるかは、最終的には役所の判断になります。

なお、違反転用した場合の追認の許可申請においては、始末書・顛末書と呼ばれる書面の添付が必要となります。この書面は、違反転用に至った経緯を説明し、今後の法令遵守を宣誓する内容の文書になります。

不利益処分と罰則

次に、是正の指導に応じない場合には、違反転用者に対し、工事その他の行為の停止などを書面により勧告します。そして、この勧告にも従わない場合、農地法第51条第1項の規定による処分または命令を検討します。この内容は、許可の取消し、許可の条件の変更、原状回復命令などになります。

許可の取消しなどの処分は、申請者にとって不利益となる処分(不利益処分)です。このような場合には、役所は、事前に、行政手続法に基づく聴聞または弁明の手続きを実施しなければなりません。これらは、違反転用をした者に対して「言い分」を聴く手続きです。

また、処分や命令とは別に、役所は、違反転用者を刑事告発するかどうかの検討を行います。裁判により有罪と認められれば、農地法第64条・67条の規定により、3年以下の懲役又は300万円(法人の場合1億円)以下の罰金が科せられます。

事態がここまでに至るのは、かなり悪質なケースに限られるとは思います。しかし、コンプライアンスがかなり重要視されている現在において、制度を悪用するような事業者に対して、厳しいペナルティーが科せられても不思議ではありません。

違反転用をしてしまったらどうする?

では、違反転用をしてしまったことに気づいたときに私たちがとり得る行動は何でしょうか。言うまでもなく、事実を認めること以外にありません。考えるべきことは、事実を隠すことではなく、経済的な損出を最小限にとどめることです。そして、そのためには率直に事実を申し出ることが重要だと考えます。

違法状態を放置することは役所にとって許されないことではあります。しかし、すべての違法転用に対して厳格な手続きを行うのも現実的ではありません。あなたが不誠実でなければ、おそらくは妥当な解決策が見つかるものと思われます。

「どのように役所に申し出ればよいのか分からない」、「事情を上手く説明できるか不安だ」などとお困りの方は、お近くの行政書士に相談してみるのも選択肢の1つでしょう。

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