不動産登記簿上、地目が「田」や「畑」となっている土地を宅地(住宅の敷地)とするためには、農地転用の手続きが必要とされています。農地に住宅を建てようとする際には、竣工前に、農地転用についての許可申請、または届出のいずれかの手続きが完了していなければなりません。
さて、住宅を建てようと考えている土地が農地だと分かったときは、その農地が①農振法、②都市計画法、③農地法の3つの法律の中で、どのような区域内の農地とされているかを調査する必要があります。農地の中には、住宅の建築を目的とする農地転用が許可されない農地も存在するからです。
農地に住宅を建てようとすると、農地転用手続きが必要になるなど、土地利用についての規制が立ちはだかることになります。農地の立地によって、ハードルが低いこともあれば高いこともありますが、法令に基づく手続きを踏まずに工事を始めることはできません。
農地を宅地にするための農地転用、転用の可否を判断するための調査
農地を宅地に転用して住宅を建てることが可能かどうかを調べるためには、転用しようとする農地が、下表で示す法律の中で、どのように位置づけられていることを調査することが重要です。最初に調査すべき法律と調査すべき内容、そして調査方法は以下のとおりです。
法律名 | 確認すべき内容 | 確認方法 |
---|---|---|
①農業振興地域の整備に関する法律(農振法) | 農用地区域内農地(青地)か否か。 | eMAFF農地ナビ |
②都市計画法 | 都市計画区域内か否か。 都市計画区域内であれば、線引きがされているか否か。 |
全国都市計画GISビューア(試行版) |
③農地法 | 農地区分(甲種農地or第1種農地or第2種農地or第3種農地) | 農地転用における「農地区分」の判定方法について行政書士が解説 |
※ 調査方法についてはすべて簡易的な方法であり、いずれの方法をとったとしても役所の担当部署への確認は必須です。①については農業政策課、②については都市計画課、③については農業委員会事務局が担当となっているのが一般的です。
農振法上の区域区分と宅地にするための農地転用手続き
農振法においては、今後10年以上にわたって農業の振興を進めていく土地を農用地区域内農地(青地)に指定し、青地の農地転用はごく一部の例外を除き、申請ができない仕組みになっています。しかし、青地の転用はまったくできないというわけではありません。
(長野県高山村のホームページより引用させていただきました)
というのは、農振法には農振計画の変更(農振除外)という手続きがあり、申請者の申出によって青地が農用地区域から除外されると、農地転用の申請が認められるようになるからです。農振除外の申出が認められるためには、以下の要件をクリアする必要があります。(農振法第13条第2項)
- 農用地等以外の用途に供することが必要かつ適当であること
- 農用地区域以外の区域内の土地をもって代えることが困難であること(代替性がないこと)
- 農地の集団性、農作業の効率化、その他農業上の効率的かつ総合的な利用に支障を及ぼすおそれがないこと
- 効率的かつ安定的な農業経営を営む者の、農地の利用集積に支障を及ぼすおそれがないこと
- 農用地区域内の土地改良施設の有する機能に支障を及ぼすおそれがないこと
- 土地改良事業等の工事が完了して8年を経過した土地であること
しかしながら、農振除外の申出は年に2,3回しか受付がされておらず、申出から結果通知まで半年ほどの時間がかかります。また、農振除外が認められるのは、あくまでも後続する農地転用の許可の見込みがある場合に限られることにも注意が必要です。
一般に、青地は農業生産力が高い農地で、後ほど解説する農地区分に当てはめると第1種農地と判断されることが多いです。そして、第1種農地では、原則として、住宅建築を目的とする農地転用は許可されません。
つまり、農振法に基づき農用地区域内農地(青地)に指定されている農地を宅地に転用することは、現実としてなかなか難しいのではないかと思われます。もちろん、青地から外された際に第2種農地という評価がされれば、可能性がないわけではありません。
都市計画法による区域区分と宅地にするための農地転用手続き
都市計画法は、高度経済成長期に起こった都市部への人口集中による無秩序な開発を防止し、計画的な市街化を図るために昭和43年に制定された法律です。この法律によって、計画的な都市づくりを進めていく区域は、都市計画区域として指定されることになりました。
また、都市計画区域においては、市街化を促進していく「市街化区域」と市街化を抑制する区域である「市街化調整区域」との間に「線引き」が行われました。ただし、市街化への圧力が弱い地域では、強い規制は不要とされたことから、線引きがされていない都市計画区域も存在します。
宅地にするための農地転用に関していえば、市街化区域と市街化調整区域との間には、その難易度には雲泥の差があります。市街化区域では農地転用は「届出」のみである一方、市街化調整区域では、農地法に基づく農地転用の「許可申請」のみならず、都市計画法に基づく開発許可を受けることも必要になるからです。
さらに言えば、市街化調整区域では分家住宅などの例外を除き、住宅の新築を目的とする開発行為は認められておらず、農地転用も許可が下りないこととされています。昔から当該区域に居住している方々を除き、市街化調整区域の農地を宅地へと転用することはかなり難しいと言えるでしょう。
都市計画法第34条11号による区域指定
ただし、平成12年の法改正により、県や市などが条例を定め、市街化調整区域におけるコミュニティーの維持・再生のために、地域の実情に応じて一定の要件を満たす区域を指定することにより、自己用一戸建住宅の建築が可能になる制度ができました。(都市計画法第34条11号による区域指定)
福島県の運用指針によれば、対象となる区域の主な要件は以下のとおりです。
- 市街化区域から1km以内で、区域外の幅員が6.5m以上の道路に接続している区域
- 区域内の幅員が原則6m以上の道路に接続(4mでも可)している区域
- 40以上の建築物が連たんする区域
- 災害危険区域や災害の発生のおそれのある土地の区域を含まない区域
※ なお、区域を指定する際には、「地区計画」の目標と方針を定める必要があります。
(イメージ図は福島県のホームページより引用させていただきました)
例外的なものに該当するかどうかは、しっかりとした調査と役所の担当者との綿密な折衝が必要になります。土地開発の専門家や農地の手続きを専門とする行政書士の活用をお勧めします。
農地法による農地区分と宅地にするための農地転用手続き
最後に、農地法に基づく農地区分と住宅建築のための農地転用の可否について解説します。農地法では、日本の農地を5種類に区分して、それぞれの農地区分について、転用目的に応じた転用の可否を規定しています。
農地区分 | 農地の状態 |
---|---|
農用地区域内農地(青地) | 市町村が定める農業振興地域整備計画において農用地区域とされた区域内の農地 |
甲種農地 | 市街化調整区域内の農地で、①農業公共投資がなされてから8年以内の農地、②集団農地で高性能農業機械での営農が可能な農地 |
第1種農地 | ①集団農地(10ha以上)、②農業公共投資対象農地、③生産力の高い農地 |
第2種農地 | ①農業公共投資の対象となっていない小集団の生産力の低い農地、②市街地として発展する可能性のある区域内の農地 |
第3種農地 | ①都市的整備がされた区域内の農地、②市街地にある区域内の農地 |
宅地にするための農地転用に限っていえば、第3種農地においては原則として許可がされることになり、第2種農地では、第3種農地では住宅の建築という目的が達成できない場合に許可されることになります。
ところで、農地を宅地に転用して住宅を建てるための農地転用は、原則として第1種農地では許可がされないこととされています。しかし、例外的に許可が受けられるケースがあります。それは、「集落接続事業」に該当すると判断された場合です。
第1種農地の不許可の例外、集落接続事業とは何か
集落接続事業とは、「住宅」または「その他申請に係る土地の周辺の地域において居住する者の日常生活または業務上必要な施設」で、集落に接続して設置されるもののことを指し、福島県の農地法関係事務処理の手引きでは、この事業について以下のような解説がされています。
「集落」とは相当数の家屋が連たんして集合している区域をいう。ただし、農村地域においては、様々な集落の形態があるところ、必ずしもすべての家屋の敷地が連続していなくても、一定の連続した家屋を中心として、一定の区域に家屋が集合している場合には、1つの集落として取り扱って差し支えない。
「集落に接続して」とは、既存の集落と間隔を置かないで接する状態等をいう。この場合、申請地と集落の間に農地が介在する場合であっても。周辺農地の利用状況等を踏まえ、周囲の土地の農業上の利用に支障がないと認められる場合には、集落に接続していると判断しても差し支えない。
ただし、集落接続事業では、貸住宅や建売住宅の建築については、原則として認められません。また、住宅の建築は個人が建築主になる場合に限られ、農家住宅の面積は原則1,000㎡以下、店舗兼住宅を含む一般住宅の面積は原則500㎡以下と定められています。
農地を転用して住宅を建てたいとお考えの方へ
この記事では、農地を宅地として利用するための諸手続きについて、農地の立地による違いを明らかにしながら解説してみました。ご理解いただけましたでしょうか。
農地を宅地にするためには、農地転用などの解説した諸手続きの他に、境界の確定や分筆の作業が伴うことが多いです。傾斜が大きい土地では法面を擁壁で支える必要もあります。事業計画を立てる際には、費用や期間について事前にきちんと確認することが重要です。