【相談事例】社会福祉施設の設置のための農地転用手続きについて

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相談者:社会福祉法人の設立代表者

社会福祉法人を設立し、福島県内に特別養護老人ホームを設置したいと考えており、法人の設立と土地の購入について準備を進めています。この度、施設を設置する候補地が見つかりましたが、その土地は農地でした。

役所に相談に行ったところ、社会福祉法人の設立にあたっては、不動産の所有権を取得することが前提となっているため、法人の設立認可に先立って、農地を取得するための許可を受ける必要があると聞きました。この場合の手続きはどういったものになるのでしょうか。

また、この手続きにおける注意点や、施設の設置に際して他に必要となる手続きについて教えてください。

回答:行政書士

農地を農地以外のものにするために権利を移転する場合には、譲渡人と譲受人が申請者となって、農地法5条に基づく申請を行い、都道府県知事等の許可を受けなければなりません。この手続きを、一般に農地転用と呼んでいます。

農地転用手続きは売買等の当事者が申請者となりますが、このケースでは、申請時点において申請者となるべき社会福祉法人が成立していません。申請者(譲受人)が存在していないという状態です。一方で、法人を設立するためには、前もって農地転用の許可を受けて、土地を取得しておく必要があります。

そこで、このようなケースでは、「社会福祉法人△△△設立準備会代表○○○○」という名義で農地転用の許可申請が認められることになっています。そして、申請が認められれば、代表者の名義で受けた許可の効力が、成立後の社会福祉法人に及ぶという解釈をすることになります。

通常、「社会福祉法人△△△設立準備会」は、法律的には「権利能力のない社団」に該当するため、所有権を取得することはできません。しかし、上記のような運用・解釈をしなければ、事業を進めるのが不可能なので、特別な配慮がなされていると言えます。

 

農地法3条、農地法4条、農地法5条、それぞれの許可申請について確認

農地を購入するための許可ということですが、農地を農地として利用する場合と、農地を農地以外の目的として利用する場合とでは、手続きの根拠や許可の要件がかなり異なります。

農地法3条申請 農地を農地として利用する場合の権利の移転・設定のこと
農地法5条申請 農地を農地以外の目的で利用するために行う権利の移転・設定のこと

また、農地を農地以外のものにする行為を農地転用といいますが、権利の移転・設定を伴う場合とそうでない場合(自己の農地の転用)とでは、根拠となる法律の条項が異なります。

農地法4条申請 処分権限のある農地(所有する農地等)を農地以外のものにすること
農地法5条申請 農地を農地以外の目的で利用するために行う権利の移転・設定こと

お客様の場合、社会福祉施設を設置するために農地を取得するということですので、農地法5条に基づく許可申請が必要になります。この許可申請は、原則として都道府県知事に対して行うこととされています。

社会福祉施設のための農地転用と社会福祉法人の設立認可

ご存じのとおり、特別養護老人ホームなどの第1種社会福祉事業の運営者は、社会福祉法人でなければなりません。そして、社会福祉法人を設立するためには、法令が要求する要件を備えたうえで、都道府県知事の認可を受ける必要があります。

社会福祉法人が運営する事業は、国民の健康や生命、生活保障にかかわる責任が重いものです。また、運営にあたっては、交付金などの公的資金が投入されます。経営の破綻という事態は避けなければなりません。したがって、法人の設立にあたっても、資産の要件が重要になります。

所轄庁は、前条第1項の規定による認可の申請があつたときは、当該申請に係る社会福祉法人の資産が第25条の要件に該当しているかどうか、その定款の内容及び設立の手続が、法令の規定に違反していないかどうか等を審査した上で、当該定款の認可を決定しなければならない。(社会福祉法第32条)

社会福祉法人は、社会福祉事業を行うに必要な資産を備えなければならない。(社会福祉法第25条)

ところで、資産には、社会福祉事業に必要な土地も含まれていますので、取得しようとする土地が農地である場合、社会福祉法人の設立認可に先行する形で、農地転用の許可が必要になります。ここで問題が生じます。

それは、農地法5条の許可申請の申請者は、土地の所有者とそこで事業を行う者(転用事業者)ですが、転用事業者が申請時点では存在していない(成立していない)という問題です。

そこで、福島県においては、本来は設立後の法人が行うべき許可申請を、設立準備会の代表者の名義で行い、その許可の効力を、成立後の社会福祉法人に帰属させることができるという運用がなされています。

また、社会福祉施設設置のための農地転用許可申請においては、資金計画についての妥当性の確認が通常の申請よりも慎重に行われます。実際の取扱いは以下のとおりです。

  • 許可権者によって、設立認可担当課(県の生活福祉総室福祉監査課)に、事業の見通しの確認がなされます。
  • 申請にあたって、設立認可担当課へ提出した資金計画書の写しの添付が求められます。なお、市町村で次年度以降の債務を負担する場合にあたっては、その予算の議決の証明の添付が必要です。
  • 建物についての資金調達は、交付金をもって充てることになると考えられますが、その交付金の交付の見込みの確認がなされます。また、交付金と併せて独立行政法人福祉医療機構からの借入金がある場合は、その見込みを借入限度額計算書等により確認されます。

社会福祉施設の設置のための農地転用は第1種農地でも可能

話は変わりますが、特別養護老人ホームの設置は、原則として転用の許可が下りないとされている第1種農地でも可能となる可能性があります。社会福祉法で社会福祉事業と定義されている事業については、農地法施行規則第37条により、公共性が高い事業と認定されるからです。

また、社会福祉事業を行うために第1種農地での農地転用の許可申請をする場合には、用地選定の任意性がないことを要求することが不適当と認められるため、代替地がないかどうかの検討をする必要がありません。「土地選定理由書・比較表」の添付が不要ということになります。

農地転用の許可要件における一般基準について確認

もっとも、農地転用の許可要件は立地基準の他に一般基準もありますので、当然、以下に列挙する一般基準の要件を満たす必要はあります。(農地法第4条第6項第3号~第6号、第5条第2項第3号~第8号、農地法施行規則第47条、第57条)

  1. 申請者に農地転用を行うために必要な資力及び信用があると認められること
  2. 申請に係る農地転用の妨げとなる権利を有する者の同意を得ていること
  3. 農地のすべてを農地転用に供することが確実と認められること
  4. 農地転用の許可を受けた後、遅滞なく、申請に係る農地を申請に係る用途に供する見込みがあること
  5. 申請に係る事業の施行に関して行政庁の免許、許可、認可等の処分を必要とする場合においては、これらの処分がされる見込みがあること
  6. 申請に係る事業の施行に関して法令により義務づけられている行政庁と協議を行っており、支障がない見込みがあること
  7. 申請に係る農地と一体として、申請に係る事業の目的に供する土地を利用できる見込みがあること
  8. 申請に係る農地の面積が、申請に係る事業の目的からみて適正と認められること
  9. 申請に係る事業が工場、住宅その他の施設の用に供される土地の造成のみを目的としないものであること
  10. 農地転用をすることにより、土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがないと認められること
  11. 農業用用排水施設の有する機能に支障を及ぼすおそれがないと認められること
  12. 周囲の農地に係る営農条件に支障を及ぼすおそれがないと認められること
  13. 農地の利用の集積に支障を及ぼすおそれがないと認められること
  14. 農地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に支障を生ずるおそれがないと認められること

社会福祉施設を設置するための開発許可、特に市街化調整区域について

社会福祉施設の設置にあたっては、農地法に基づく許可の他に、都市計画法に基づく開発許可が必要な場合があります。開発許可は、一定の面積以上の開発行為を行おうとする際の許可で、許可が必要な面積は、都市計画法上の区域区分によって異なります。

エリア 開発許可が必要となる面積
市街化区域 1,000㎡以上
非線引き都市計画区域 3,000㎡以上
市街化調整区域 面積に関わりなくすべて
都市計画区域外 10,000㎡以上

ご覧のとおり、市街化調整区域においては、すべての開発行為について開発許可が必要であり、都市計画法34条第1項で定められている立地基準の要件に該当しない限り、開発行為ができないことになります。

開発行為とは、建築物の建築を目的とする土地の区画形質の変更で、農地を転用する行為もこれに含まれます。ですので、開発許可が下りないことには、特別養護老人ホームを建築できないことになります。

福島県の開発許可制度の手引きによれば、市街化調整区域での社会福祉施設(入居系の施設)の設置については、都市計画法第34条第1項第14号で規定する「知事があらかじめ開発審査会の議を経た開発行為」の中で許可要件が定められています。

特別養護老人ホームを目的とする開発許可の許可要件(立地基準)

福島県における該当要件(運用基準)は以下のようになります。

次の1~4のすべてに該当する施設で、その位置、規模等から見て周囲の市街化を促進するおそれがないと認められるもの

  1. 次のaからcのいずれかに該当するもの
    1. 近隣に関係する医療施設、社会福祉施設等が存在し、これらの施設と当該施設のそれぞれが持つ機能とが密接に連携しつつ立地又は運用することが必要であると認められる場合
    2. 当該施設を利用する者の安全等を確保するため立地場所に配慮する必要がある場合
    3. 当該施設が提供するサービスの特性から、当該開発区域周辺の資源、環境等の活用が必要であると認められる場合(主たる施設用途が入所系の社会福祉施設であるものに限る)
  1. 設置及び運営が国の定める基準に適合するものであること
  2. 福島県及び当該市町村の福祉施策の観点から支障がないことについて、関係部局と調整がとれたものであること
  3. 当該市町村の都市計画マスタープラン等の土地利用方針に照らし支障がないものであること

平成18年の法改正までは、社会福祉施設の設置のための開発行為については、許可が不要でした。許可が必要となった理由は、様々な都市機能がコンパクトに集積した、歩いて暮らせるまちづくりを目指そうとしたからだとされています。

特別養護老人ホームの入居者も地域で生活する住民の1人ですので、人々が生活する近くに立地するのが好ましいというのが行政の考え方だといえるでしょう。

農地を転用して社会福祉施設を設置しようとお考えの方へ

解説してきましたように、社会福祉施設の設置と社会福祉法人の認可を並行して進めていくには、法人の認可に先立って、法人設立準備会の代表者名義で、農地転用の申請を行うという運用がなされています。

農地法や都市計画法に基づく土地開発の手続きと社会福祉法人の設立の手続き、さらには運営しようとする事業の準備を同時に行うのはなかなか難しいことだはないかと思います。どちらの手続きについても、担当する役所の部署とこまめに協議をしていかなければなりません。

土地に関する手続きも社会福祉法人の認可についての手続きも、行政書士が関与することでスムーズに進められるケースが多いものと考えます。引き続きご相談いただければ幸いです。

今回は特別養護老人ホームの設置ということで、入居系の福祉施設に焦点を当てて解説しました。保育所などの通所系の福祉施設の立地については、若干違う運用がなされていますので、その点はご留意いただければと思います。

また、福祉施設の設置を目的とする農地転用・開発許可については、農地に福祉施設や医療施設をつくるための手続きを行政書士が解説 の記事も併せてご一読ください。

 

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