福島県の行政書士、佐藤勇太です。
農地に福祉施設や医療施設をつくるためには、事前に農地転用の許可を受ける必要があります。また建物を建てる目的で農地を転用することは、開発行為に該当するため、敷地面積によっては、開発許可を受けなければならない場合があります。
一般に、福祉施設や医療施設は一戸建て住宅よりも広い面積の土地を必要とします。ほとんどの施設は法令によって必要な床面積などが定められていますし、大きな病院は駐車場の確保も課題となります。市街地に土地が見つからず、郊外に求める場合も多いことでしょう。
また、原則として建物を建てることができない市街化調整区域においても、そこで生活する住民にとっては、近くに保育所や診療所などの福祉施設・医療施設がないと日常生活に支障をきたしてしまう可能性があります。
そのため、福祉施設や医療施設をつくるための農地転用や開発許可は、その立地基準について特別の定めがあり、優良な農地や市街化調整区域でも、施設(建物)の建築が認められることがあります。それでは、特別な定めとはどのようなものなのでしょうか。
目次
福祉施設、医療施設をつくるための農地転用の立地基準
ところで、農地転用の許可は、立地基準と一般基準の2つの基準により審査がなされます。農地はその農地の生産性によって5つに区分され、「ランク付け」されています。そして農地転用は、生産性の低いランクの農地から行われるように制度設計されています。
農地を転用して福祉施設や医療施設をつくる際には、まずは転用しようとする農地がどの農地区分に属しているのかを確認しなければなりません。その際には、農地法上の農地区分の他に農振法(農業振興地域の整備に関する法律)による区域指定もありますので注意が必要です。
農地転用が難しい農地(青地、甲種農地、第1種農地)を確認
農振法によって、農用地区域内農地(青地農地)に指定されている農地の転用は禁止されています。ですので、この区域内の農地を転用するには、まずは青地農地の指定を外す申請(除外申出)をして、そしてその上で農地転用の許可申請をするという手順を踏むことになります。青地はそもそも転用が難しい農地ですし、除外申出の受付は年に2,3回しかありません。難易度が高く、時間がかかる手続きになります。
甲種農地、第1種農地は農地法上の農地区分ですが、これらの農地も営農条件に優れた農地です。農業のための公共投資がされているということもあり、原則として転用はできないこととされています。
だだし、医療施設においては例外的な取り扱いがあります。福島県の手引きによれば、「病院、療養所その他の医療事業の用に供する施設でその目的を達成する上で市街地以外の地域に設置する必要があるもの」は、転用を許可することができるとされているのです。
入院施設があるような大きな病院は、市街地に土地を求めることが困難であるため、農地転用の許可基準が緩和され、第1種農地等でも許可がされ得るということになります。
※法律上、病院と診療所は異なるものです。病床数が20床以上の医療機関が病院で、19床以下の医療機関が病院です。普段私たちは、区別しないでどちらも「病院」と呼んでいます。
農地転用が可能な農地(第2種農地、第3種農地)を確認
第2種農地、第3種農地は宅地化が進んでいる地域の農地で、転用が可能な農地です。ただし、第2種農地を転用する際には、周辺の他の土地では事業の目的を達成できないという理由付けが必要です。宅地などの農地以外の土地や第3種農地が近くにあるのならば、役所としては「そちらを使ってください」ということになります。
ところで、農地法上の農地区分はハッキリした「線引き」があるわけではないことには注意する必要があります。一筆一筆のそれぞれの農地がどの農地区分に該当するかは、あらかじめ定められているわけではないのです。
判断基準が示されているためおおよその見当はつきますが、最終的な判断は役所が行うことになります。勝手に判断してしまうのは危険です。福祉施設や医療施設を建てる候補地が決まったら、まずは役所や行政書士に相談してください。
福祉施設、医療施設をつくるための開発許可手続き
開発許可制度とは、一定規模以上の開発行為(建物の建築を目的とした土地の造成等)を行う場合に、都道府県知事や市長の事前の許可を必要とする制度です。そして、開発許可申請が必要となる面積は、その土地が位置する地域によって異なります。
開発許可制度によって、原則として建物の建築が禁止されている地域が市街化調整区域です。この地域で開発行為を行うためには、面積にかかわらず開発許可を受けなければなりません。市街化調整区域で開発許可を受けるためには、都市計画法第34条の各号のいずれかに該当するものでなければなりません。
市街化調整区域に福祉施設、医療施設をつくるための要件
都市計画法第34条の各号のうち、福祉施設や医療施設に関係するのは、第1号と第14号の2つになります。第1号は「政令で定める公益上必要な建築物」を目的とする開発行為であり、第14号は、「開発審査会の議を経て行う開発行為」です。それぞれについて該当要件とその確認資料を見ていきましょう。
政令で定める公益上必要な建築物(都市計画法第34条第1号)
(第1号)主として当該開発区域の周辺の地域において居住している者の利用に供する政令で定める公益上必要な建築物又はこれらの者の日常生活のため必要な物品の販売、加工若しくは修理その他の業務を営む店舗、事業場その他これらに類する建築物の建築の用に供する目的で行う開発行為
「政令で定める公益上必要な建築物」とは、保育所や認定こども園などの社会福祉施設や診療所などの医療施設のことを指しています。これらの施設については、以下の要件を満たすことで、市街化調整区域でも建築が可能になることがあります。
該当要件
- 市街化区域から道程でおおむね1km以上で、かつ、既存集落内に存することまたは既存集落の外縁からおおむね1km以内に存すること
- 既存集落とは、半径500mの円内におおむね50戸以上の人家(世帯)が存する集落とすること
- 当該開発区域の敷地が原則として幅員6m以上の国県市町村道に接すること
- 当該市町村の都市計画マスタープラン等の土地活用方針に照らし、支障がないものであること
- 法人の設立、施設の設置営業等について個別法により許認可等を要する場合には、申請者が当該許認可を受けているか、確実に受けられる見込みがあること
- 当該施設の敷地面積が3,000㎡以内で、当該施設の利用対象等を勘案して適切な規模であること
該当することを確認する資料
【社会福祉施設の場合】
- 立地を予定している地域の需要を考慮した規模であることを明示した事業計画書
- 位置図(市街化区域から道程で概ね1km以上で、半径500mの円内に概ね50戸以上の人家が存する既存集落の範囲内、または既存集落の外縁から概ね1㎞以内にあり、幅員6mの公道に接続していることを証するもの)
- 設備及び運営が厚生労働省の定める基準に適合していることを証する書類
- 市町村の土地利用方針の観点から支障がない旨の市町村長の意見書
- 入所系施設にあっては、主として当該開発区域周辺の市街化調整区域に居住している者、その家族及び親族が入所するためのものであることを証する書類
【医療施設の場合】
- 事業計画書
- 位置図(市街化区域から道程で概ね1km以上で、半径500mの円内に概ね50戸以上の人家が存する既存集落の範囲内、または既存集落の外縁から概ね1㎞以内にあり、幅員6mの公道に接続していることを証するもの)
- 市町村の土地利用方針の観点から支障がない旨の市町村長の意見書
- 主として当該開発区域周辺の市街化調整区域に居住している者が利用するものであることを証する書類
開発審査会の議を経て行う開発行為(都市計画法第34条第14号)
(第14号)都道府県知事が開発審査会の議を経て、開発区域の周辺における市街化を促進するおそれがなく、かつ、市街化区域内において行うことが困難又は著しく不適当と認める開発行為
第14号は、個別的具体的に目的、規模、位置等を総合的に検討し、周辺の市街化を促進するおそれがないと認められ、かつ、市街化区域内において行うことが困難または著しく不適当と認められるものを、開発審査会の議を経て、許可できると定めています。
「開発審査会」とは、この都市計画法第34条第14号の基準などを審査するために、都道府県や指定都市ごとに設けられた機関です。従って、都市計画法第34条第14号の基準は都道府県や指定都市ごとに違いがあります。
福島県の基準でいえば、有料老人ホームなどがこれに該当します。また、社会福祉施設や医療施設で第1号の要件を満たさない施設においても、第14号に基づいて許可がされることがあります。
以下は、老人福祉法第29条第1項に基づく有料老人ホームについての該当要件と確認資料です。
該当要件
- 施設及び運営が国の定める基準に適合するものであること
- 「福島県有料老人ホーム設置運営指導指針」に適合するものであること
- 既存の医療、介護機能との密接な連携を図る必要性等から、市街化区域に立地することが困難または不適当であること
- 当該施設の立地について、その開発区域を管轄する市町村長から福祉政策、都市計画に観点から支障がない旨の承認を受けたものであること
該当することを確認する資料
- 「有料老人ホームの設置運営指導指針」における基準に適合している旨の証明
- 管理運営規程
- 市長村長が承認した旨の証明
- 市街化区域に立地することが困難または不適当である旨の理由書
行政書士から福祉・医療事業者様へのメッセージ
福祉施設や医療施設をつくるための農地転用・開発許可については、特別な定めがあり、第1種農地や市街化調整区域でも施設の建築が可能になり得ることを解説してきました。ご理解いただけましたでしょうか。
福祉事業も医療事業も行政の許認可が必要な事業であり、その設備や運営については細かい基準があります。児童福祉法や障害者総合支援法、医療法などに規定されている許認可の基準も満たさなければ事業をスタートさせることはできません。
また、施設の建築においては、農地法や都市計画法のみならず、建築基準法や消防法による規制もあります。自治体独自の条例や要綱も確認しておかなければなりません。市街化調整区域についての特別な定めがあるとしても、その他の地域で事業を行う方が手続きは簡単です。
行政書士は行政規制と行政手続の専門家です。福祉施設や医療施設を建築し、事業をスタートさせるには多くの専門家の力が必要です。行政書士はそれぞれの専門家をとりまとめ、事業者と行政をつなぐ役割を果たせるものだと考えております。
※ 特別養護老人ホームなどの(入所系の)社会福祉施設の設置については、【相談事例】社会福祉施設の設置のための農地転用手続きについて の記事もご参照いただければ幸いです。
福祉施設、医療施設をつくるための農地転用、ご相談をご希望の方は、【業務案内】農地を転用して福祉施設や医療施設をつくりたい方へ をご覧ください。