農地に住宅を建てるなどの転用事業を実施しようとする場合、行政書士がすべての手続きを担えることはほとんどありません。土地家屋調査士や司法書士といった登記にかかわる専門家の力を借りなければ、依頼者の権利や利益を守ることができません。
特に、土地家屋調査士は、一般の方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、行政書士が行う農地転用手続きの前段階においても、手続きが終えた後においても、転用事業の成功に深くかかわる重要な役割を果たすことになります。
この記事では、土地家屋調査士の専門業務について確認をした上で、転用事業の一連の流れの中で、土地家屋調査士がどのような役割を担っているかについて解説しています。最後までお読みいただければと思います。
土地家屋調査士が専門とする業務について解説
さて、冒頭で土地家屋調査士の仕事が登記にかかわるものだと申し上げましたが、この場合の登記とは、登記簿(土地の登記事項証明書)でいう表題部のことを指しています。下の図で示すように、表題部には、①土地の地番、②地目、③地積(面積)の情報が記載されています。
(長野県のHPより引用)
正確な地目・地積を登記簿に反映させるには、専門的な知識や技能に基づいた調査や測量が必要です。土地家屋調査士の重要な業務の1つは、登記簿の表題部、すなわち不動産の表示に関する登記につき必要な、土地または建物の調査及び測量をすることです。
また、土地家屋調査士は、筆界(土地と土地の境界)の確認・特定の専門家でもあります。筆界の確定は確定測量(土地筆界確定測量)という作業によって行われます。確定測量とは、隣地所有者の立ち会いの下に、境界点の確認と合意を得て、境界の座標点が現された測量図を作成することをいいます。
住宅などの建築のために、土地を購入する場合を考えてみましょう。隣の土地との境界や道路との境界がはっきりしていないと、後々に問題が生じかねません。それを防止するために、住宅などの敷地となる土地の売買の場面においては、これに先立って確定測量が行われています。
なお、確定測量によって作成された測量図は、登記申請によって、地積測量図として法務局に備えつけられ、すべての人に公開されることになります。この地積測量図は、すべての土地について存在するものではありません。
農地転用における土地家屋調査士の役割について解説
それでは、実際の農地転用の事業全体の中で、土地家屋調査士の専門性がどのように活かされているのでしょうか。ここでは、農地の分筆と地目の変更登記について解説します。
農地の確定測量と分筆は土地家屋調査士業務
住宅の建築などの転用事業を進めるにあたっては、行政書士による許可申請や届出に先立って、転用する農地の確定測量が行われることが多く、また、転用しようとする農地が広すぎる場合には、土地(農地)の分筆が必要になることがあります。転用する面積は「事業の目的からみて適正」でなければならないという規定があるからです。
分筆とは、一筆の土地を、確定測量をした上で、複数の土地に分けることをいいます。例えば、一般住宅を建てる場合、その敷地面積は概ね500㎡以内とされています。そのため、500㎡を大幅に超える面積の農地を住宅の敷地とする場合、農地転用に先立って土地の分筆を行うことになります。
分筆のための測量・登記には、少なくとも1か月程度の期間がかかります。ですので、分筆が必要な農地転用の事業計画を立てる際には、この期間も考慮する必要があります。
農地の確定測量や分筆、そしてそれに伴う表題部の登記申請は、行政書士を含めて、無資格者が行うことができません。ですので、土地家屋調査士の資格も持っている行政書士は別として、農地転用の手続きを依頼された行政書士は、これらの業務については、土地家屋調査士の先生にお願いすることになります。
地目変更登記は土地家屋調査士業務
ここからは、行政書士や本人による農地転用手続きが完了した後の話になります。「許可が出たのだからもう手続きは不要だ」と思われる方も多いのではないでしょうか。しかし、最後にもう1つ手続きが残されているのです。
役所から農地転用の許可証が交付されると、土地の造成等ができるようになります。そして、土地の造成等が終わると、土地の現況が農地から宅地や雑種地に変わります。ここで生じるのが不動産登記法に基づく地目変更の登記義務になります。
不動産登記法第37条第1項の規定によれば、土地の所有者は、地目の変更のあったときから1か月以内に登記の申請をしなければなりません。地目の変更があったときとは、宅地の場合、土地の整地や建物の基礎工事が完了した段階だといわれています。
しかし、住宅ローンを組む場合を除いて、建物の新築のケースでは、建物が完成した時点で、表題部の登記申請と同時に申請するのが一般的です。そして、この建物の表題部の登記と地目の変更登記については、本人が申請することも可能ではありますが、土地家屋調査士が専門とする業務となります。
住宅ローンを組む場合の地目変更のタイミング
ところで、農地に住宅を建てようとする場合、土地の地目が農地のままだと、住宅ローンを組むことができません。住宅ローンとは、金融機関が土地を担保に建築資金を融資することですが、農地は売買の対象になりにくく、資産としての価値が低いため、金融機関が抵当権の設定をしないからです。
そのため、農地を農地のまま購入し、農地転用の手続きを経て、そこに住宅を建てる場合には、建物の完成まで地目変更の登記を待つことはできません。このケースでは、土地の造成が終わり、建築確認による確認済証が交付された段階で、地目変更の登記申請をすることになります。
農地転用のご相談を受ける土地家屋調査士の先生へ
農地転用の届出または許可申請の書類の作成は、行政書士法で定められた独占業務ですので、無資格者が行うことはできません。しかし、事業者が進めていく転用事業の全体を俯瞰すると、土地家屋調査士の先生方が果たす役割は、非常に大きいものだと考えます。
当事務所では、農地転用や農地の売買等についての手続きに関して、土地家屋調査士の先生や他の専門家の方からのご相談をお受けしております。書類作成や役所との折衝でお困りのことがあれば、ご連絡いただければ幸いです。