【相談事例】農地法の許可証を失くしてしまったので登記できない

記事更新日:

相談者:70代男性

10年ほど前、近くに住む親族から、私が所有していた農地を資材置場として使いたいという申し出があり、農地法の許可(5条許可)をとって売り渡しました。

本来ならば、土地の地目を変更し、所有者の変更をすべきだったのですが、買主からの要求もなく、また土地の価格が低かったこともあって、登記をせずに放置していました。この間の土地の固定資産税は私が負担していました。

私も買主の親族も高齢になり、子どもたちのためにも権利関係をハッキリさせておきたいと感じるようになりました。そこで司法書士に登記をお願いしたところ、所有権移転登記をするためには、農地法の許可証が必要だといわれました。

許可証は相手が持っていると思い込んでいましたが、実際には私も買主も許可証を紛失してしまっていたようです。この場合、農業委員会に申し出れば許可証を再発行してもらえるのでしょうか。

回答:行政書士

農地法の許可証は再発行されません。しかし、そうだとすれば、地目変更登記や所有権移転登記が一切できなくなってしまいますので、困ったことになってしまいます。

そのため、市町村の農業委員会や都道府県知事は、申請者からの申請に基づき、過去に許可があったことを証明する書類を交付することとされています。

福島県においては、農地転用(農地法4条または5条)の許可が過去にあったことを証明する書類として、「許可が取り消されていない旨の証明」と「許可の条件を履行したことの証明」の2種類が用意されています。

お客様の場合、すでに資材置場としての使用が始まっていますので、「許可の条件を履行したことの証明(履行証明)」を申請し、この証明を受けることによって農地法第5条の許可証の代わりとすることができます。

つまり、農地法の許可証を紛失した場合であっても、履行証明などの許可があったことを証明する書類を添付することによって、地目変更や名義変更ができるようになるということになります。

ご希望であれば、私がお客様からの委任状をいただいて、履行証明の交付申請を代行します。履行証明が交付されましたら、それを土地家屋調査士や司法書士にお渡しいただければ登記申請が可能になるかと思います。

農地法の許可証がなければ登記申請ができない

農地の売買は、農地法3条または5条の許可を受けなければ効力が発生しません。当事者間での合意のみでは所有権が移転しないということになります。したがって、許可証を添付しなければ土地の名義変更(所有権移転登記)ができません。

また、農地を農地以外のものにする(転用する)ためには、農地法4条または5条の許可を受けることが必要です。許可なしに農地を宅地等に転用した場合、違反転用とみなされ、行政処分や罰則の対象となります。

農地転用の許可証を添付せずに地目変更をしようとすると、地目変更の申請を受けた法務局では、市町村の農業委員会に対して、転用の許可があったかどうかの照会をします。農業委員会の調査により違反転用の事実が発覚した場合には、地目の変更ができません。

つまり、農地法の許可証がなければ、原則として所有権移転登記も地目変更登記もできないということになります。ただし、地目の変更については、法務局からの照会を受けた農業委員会の回答により、登記が可能になることがあります。

許可の種類 許可の内容
農地法3条許可(届出) 農地を農地のまま売買、貸借する際の許可
農地法4条許可(届出) 農地を農地以外のものにする(転用する)際の許可
農地法5条許可(届出) 農地を転用するために売買・貸借する際の許可

※ 申請農地が都市計画法の定めによる市街化区域内にある場合は、「届出」という手続になります。

農地法の許可証の代わりとなる書類とは

ところで、農地法の許可証は、申請の当事者が紛失した場合でも再発行がされません。そうすると、現実に起きた権利の移転や地目の変更が永久に登記簿に反映されなくなり、法的な安定性を欠く事態に陥ってしまいます。

そこで、農地法に基づく許可や届出が過去に行われていたことが確認できた場合には、農業委員会などが許可証の代わりとなる証明書を交付する運用がされています。都道府県によって証明書の呼び方が違うようですが、「許可証明」や「届出証明」などがこれに該当します。

そして、福島県においては、農地法の許可や届出があったことを証明する書類が下の図のように3種類あります。

ケース 証明書
3条許可、4条・5条許可(工事完了前) 許可が取り消されていないことの証明
4条・5条許可(工事完了後) 許可の条件を履行したことの証明
市街化区域内の農地法届出(3条・4条・5条) 届出が受理されていることの証明

許可の条件を履行したことの証明(履行証明)について解説

この記事では、農地転用の許可を受け、工事が完了したにもかかわらず、登記をしなかったケースを想定しています。この場合、「許可の条件を履行したことの証明(履行証明)」の交付申請を土地が所在する市町村の農業委員会に対して行うことになります。

履行証明(許可の条件を履行したことの証明)の定義

履行証明とは、農地法第4条または第5条による許可を受けた後、許可の条件に沿って転用事業が完了し、許可を受けた農地が非農地化したにもかかわらず、農地の権利の設定・移転及び地目変更に関する登記をしなかったため、登記申請等の際に当該証明を要するものをいいます。(福島県現況確認証明書等交付事務取扱要領より)

この証明の対象となるのは、過去に農地法4条または第5条による許可(農地転用許可)を受けた土地で、転用事業が許可条件のとおり実現したものになります。許可を受け、許可証に記載したとおりに転用事業が行われなければこの証明の対象にはなりません。

履行証明(許可の条件を履行したことの証明)の交付申請

履行証明の交付を受けるためには、申請者が次に掲げる書類を提出しなければなりません。

  • 申請書
  • 案内図(申請地の位置を表示した図面)
  • 申請地の登記事項証明書(全部履歴事項証明書)
  • 現況写真
  • 工事完了報告書
  • 承継関係を確認できる書類(証明申請者が承継人の場合)

なお、この交付申請の申請者となれるのは、農地法4条または第5条による許可(農地転用許可)を受けた者かその承継人に限られます。登記簿上の所有者と申請者が異なるような場合には、承継関係を確認できる書類を添付する必要があります。

交付申請を受けた農業委員会は、過去にさかのぼって許可があったかどうかを調査し、現況を確認します。そして、申請書の内容が事実と相違ないと判断した場合には、申請書にその旨を奥書し、申請者に交付することとされています。

ただし、実務的にいえば、履行証明の申請を提出する前に農業委員会事務局に相談に行き、許可の事実があるのかを確認しておいた方が手続はスムーズです。相談に行く際には、転用があったのがいつ頃なのか、ある程度時期を特定しておくとよいでしょう。

※ 履行証明の交付申請については随時受付となっている自治体がほとんどです。

農地法の許可証は再発行されないのでご注意を

農地法の許可や届出の成果としての許可証は、登記申請において重要な役割を果たすものですが、紛失してしまうと再発行されませんので注意が必要です。その代わりに、許可があったことを証明する書類の交付を申請することになりますが、余計な手間や費用がかかってしまいます。

権利の設定・移転の登記は義務ではありませんが、これをせずに放置しておくと、真実の権利者が誰なのか分からない状態になります。時間が経過すれば許可証を紛失するリスクも高まります。また、地目変更登記は法的義務とされています。

農地法の許可を受けた皆様におかれましては、工事完了報告の提出や登記申請などの許可後の手続についても、怠ることなく速やかに行うことをお勧めいたします。

福島県内の農地転用や開発に関する相談のご予約

対面でのご相談、Zoomなどのオンラインでのご相談をご希望の方は、お電話またはメールにてお問い合わせください。できる限り早く面談の時間を設定させていただきます。

お電話での相談のご予約

「農地のホームページを見た」とお伝えください。

受付時間:月-金9:00-18:00(土日祝休み)
メールでの相談のご予約・お問い合わせ

メールは365日、24時間承っております(返信は通常1~2営業日中に送信いたします)
メールでの無料相談は承っておりません。あらかじめご了承ください。

    行政書士佐藤勇太事務所(以下、「当事務所」という。)は、当サイトの来訪者の個人情報について、以下のとおりプライバシーポリシーを定めます。

    1.事業者情報

    事務所名:行政書士佐藤勇太事務所
    住  所:福島県二本松市大壇157番地1
    代  表:行政書士 佐藤勇太

    2.個人情報の取得方法

    当事務所は、来訪者がお問い合わせフォームから送信する際に、氏名・電話番号・メールアドレスを取得させていただきます。

    3.個人情報の利用目的

    お問い合わせへの対応とその後の相談、業務の遂行、アフターサービスのために利用させていただきます。
    また、当サイト内で「このようなお問合せがありました」と紹介させていただく場合もあります。

    4.個人データを安全に管理するための措置

    当事務所は、個人情報を正確かつ最新の内容に保つよう努め、不正なアクセス・改ざん・漏えい・滅失及び毀損から保護するための措置を講じます。

    5.個人データの第三者提供について

    当事務所は、法令及びガイドラインに別段の定めがある場合を除き、同意を得ないで第三者に個人情報を提供することは致しません。

    6.保有個人データの開示、訂正

    当事務所は、本人から個人情報の開示を求められたときには、遅滞なく本人に対しこれを開示します。
    個人情報の利用目的の通知や訂正、追加、削除、利用の停止、第三者への提供の停止を希望される方は当事務所までご連絡ください。

    7.個人情報取り扱いに関する相談や苦情の連絡先

    当事務所の個人情報の取り扱いに関するご質問やご不明点、苦情、その他のお問い合わせは、お問い合わせフォームよりご連絡ください。

    8.Google Analyticsの利用について

    当サイトではホームページの利用状況を把握するためにGoogle Analyticsを利用しています。そのためGoogle Analyticsから提供されるCookie を使用していますが、Google Analyticsによって個人を特定する情報は取得していません。

    9.免責事項

    当サイトに掲載されている情報の正確性には万全を期していますが、利用者が当サイトの情報を用いて行う一切の行為に関して、一切の責任を負わないものとします。
    当事務所は、利用者が当サイトを利用したことにより生じた利用者の損害及び利用者が第三者に与えた損害に関して、一切の責任を負わないものとします。

    10.著作権・肖像権

    当サイト内の文章や画像、すべてのコンテンツは著作権・肖像権等により保護されています。無断での使用や転用は禁止されています。

    2023年5月1日制定

    ページトップへ戻る