市街化調整区域に農家住宅を建てるための要件と手続きを行政書士が解説

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自然が豊かな田園地帯に住宅を建てたいというニーズは少なからず存在しますが、その場所が市街化調整区域に指定されている場合には、話は簡単ではありません。およそ、一般の方がこの区域の農地に住宅を建てるのは、かなり厳しいと言わざるを得ません。

ただし、市街化調整区域内で農業を営む世帯が住宅を建てるとなると、また話は違ってきます。この場合、都市計画法29条に基づく開発許可という手続きが不要となり、農地転用の手続きのみで、建築が可能となるケースがあるからです。

令和5年には、農地取得の際の下限面積の要件が撤廃され、農業への新規参入がしやすくなりました。しかし、農業を始めたからといっても、要件を充たさなければ、「農家住宅」を建てることはできません。

この記事では、市街化調整区域において、開発許可なしでも建築が可能となる「農家住宅」について、建築するための要件と手続きについて解説しています。施主(建築主)となる方のみならず、ハウスメーカー様にも役に立つ記事になればと思います。

開発行為の許可とその特例について(都市計画法第29条より)

開発許可とは、開発行為を行う際の許可のことをいいますが、そもそも開発行為とは、どのような行為を指すのでしょうか。言葉の定義を確認しておきましょう。

開発行為とは、都市計画法第4条第12項において、「主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行なう土地の区画形質の変更」と定義されています。住宅建築についていえば、宅地造成工事がこれにあたります。

都市計画法第29条第1項では、開発行為を許可制としていますが、例外的に許可が不要なものが列挙されています。そのうちの1つが「農家住宅」に関する規定です。

2 市街化調整区域、区域区分が定められていない都市計画区域または準都市計画区域内において行う開発行為で、農業、林業若しくは漁業の用に供する政令で定める建築物またはこれらの業務を営む者の居住の用に供する建築物の建築の用に供する目的で行うもの(都市計画法第29条第1項第2号)

ここでいう農林漁業を営む者とは、被傭者(雇われている人)や兼業者を含みますが、臨時的と認められる者は含みません。また、季節的に従事する者を含みますが、家庭菜園のレベルで農業を営む者は含まれません。

「農家住宅」を建築できる農家の要件

「農家住宅」とは、通常、都市計画法に基づく開発許可制度において、市街化調整区域にて農業を営む世帯の居住のための建築物のことをいいます。ところで、「農家住宅」を建築することができる農家と認められるためには、どのような要件が必要なのでしょうか。

農林水産省の農林業センサスでは、農家を次のように定義しています。

経営耕地面積が10アール(1,000㎡)以上の農業を営む世帯または経営耕地面積が10アール(1,000㎡)未満であっても、農産物販売金額が年間15万円以上ある世帯

農家の要件をホームページ上で公開している自治体は多くはありませんが、上記の定義をそのまま適用している自治体もあれば、独自の要件を設定している自治体もあるようです。

例えば、福島県郡山市の場合は、耕作面積1,000㎡以上で、かつ申請者の農業従事日数が年60日以上と定めています。このように農家の要件は、許可の権限を持つ都道府県や政令市などによって違いが見られます。

「農家住宅」を建築するための手続きの流れ

市街化調整区域内の農地に「農家住宅」を建築するためには、都市計画法上の開発許可は不要ですが、農地法上の規制まで解除されているわけではありません。そのため、農地転用の許可申請を行い、許可を受けなければなりません。

また、住宅などの建築物を建築する場合には、事前に建築基準法に基づく建築確認申請をするよう義務付けられています。建築物には、建築基準法のみならず、多くの法令による規制がなされています。都市計画法上の開発行為の規制もその1つです。

住宅を建てるための農地転用許可申請

自らが建築主となって住宅を建築する場合には、手続きの形式として、次の2つが考えられます。私たちはこれら2つの手続きをまとめて、農地転用と呼んでいます。

ケース 手続き
自らが権利を持つ農地を建物の敷地に転用する場合 農地法4条許可申請
農地の権利を取得または設定して建物の敷地に転用する場合 農地法5条許可申請

大雑把にいえば、自分の農地に家を建てる場合は、農地法4条に基づく許可申請を、他の誰かから農地を買って、そこに家を建てる場合は、農地法5条に基づく許可申請を行うことになります。

そのため、4条申請の申請は、農地所有者1人による単独申請となり、5条申請の申請は、農地の売主と買主2人による共同申請となります。申請先は、都道府県または都道府県から権限が委譲された市町村となります。

農地転用の許可が受けられるかどうかは、立地基準と一般基準によって判断されることになりますが、より重要なのは立地基準の方になります。食料の安定供給という農地転用制度の趣旨・目的に照らせば、農業生産性の高い、優良な農地の転用は認められないからです。

立地基準を充たしているかどうかの審査は、申請農地がどの農地区分に位置しているかを判断することから始まります。日本の農地は、5種類の農地区分に「ランク分け」されており、農地転用はなるべくランクの低い農地から行われるように制度設計されています。

農地区分の判定方法やその農地区分で許可される転用目的について、詳しく知りたい方は、農地転用における「農地区分」の判定方法について行政書士が解説 の記事をご一読ください。

また、農地転用の一般基準について詳しく知りたい方は、農地転用における一般基準の許可要件について行政書士が解説 の記事をご参照ください。

建築確認と都市計画法施行規則第60条証明

農地転用の許可が下りて、無事に住宅が建てられるようになった後に行われるのが、建築確認申請です。建築確認とは、建築しようとする建築物が建築基準法や関連する法令に適合しているかどうか、役所が事前チェックする手続きです。

関連する法令の中には農地法や都市計画法も含まれます。そのため、建築確認申請にあたっては、これらの法令に適合していることを示す書類、例えば農地法許可証などの添付が求められる場合があります。

ところで、「農家住宅」を建築する際の建築確認申請では、都市計画法施行規則第60条証明(「60条証明」)の添付が必要とされています。これはいったいどのような書類なのでしょうか。

「60条証明」は、これから建築物を建築しようとする計画が、都市計画法に適合していること、具体的にいえば、都市計画法第29条第1項第2号を根拠として、開発許可が不要となっていることを証明する書類です。

「農家住宅」の建築主は、建築確認申請の際に「60条証明」を添付することによって、開発許可なしに、市街化調整区域に住宅を建築できるようになるわけです。

都市計画法施行規則第60条証明の申請手続き

それでは、福島県郡山市を例に、「60条証明」の取得のための手続きついて解説を加えます。郡山市において、農家住宅を建築するための「60条証明」を取得するためには、開発建築指導課に対して、以下の書類を提出しなければなりません。

農家の要件に該当することを証明するもの

前に解説したとおり、郡山市の農家の要件は、農業従事日数が60日以上、耕作面積が1,000㎡以上です。この要件に該当するかどうかは、農業委員会が発行する耕作証明書によって証明することになります。

書類 注意点など
耕作証明書 郡山市農業委員会発行のもの。借入地で要件を充たす場合は、農地法第3条規定による許可申請書の写しを添付する。
世帯全員の住民票 居住予定者全員のもの(従前同居世帯も含む)。
土地家屋名寄帳 既存建築物の有無の確認のために必要。名寄帳がない場合は資産がないことの証明書を提出する。
既存建築物取壊し等の念書 宅地替え等の場合に提出する(実印の押印、印鑑証明書添付)。

その他の書類

農家住宅の立地については、自らが耕作する田畑に近いことが求められます。また、接道の要件や敷地面積・建築面積の要件を充たすかどうかの確認のため、次のような書類の提出が必要です。

書類 注意点など
申請書 指定の様式のもの(押印不要)。
案内図 申請地を赤色で明記する。
土地登記事項証明書 証明を受けようとするすべての土地について添付する。(申請地の所有者、地目、土地の形状の確認のため)
公図の写し 申請地を赤色で着色する。区域がまたがる場合は合成し、調査法務局名、日付、調査者の氏名を記入し、押印する。
建築計画概要書 第1面、第2面を添付する。
配置図 接する市道名、建築基準法上の道路種別、道路幅員等を記入する。新設、既存建築物及び構造物を記載し、取壊し予定等のものがあればその旨も記載する。
平面図・立面図
求積図 建物の建築面積及び延べ床面積の求積図を添付する。敷地については、座標法により面積を計算する。

「農家住宅」を建てたいとお考えの方へ、行政書士からひと言

「農家住宅」は、開発許可なしでも建築できるという点で、都市計画法上の土地利用規制が大きく緩和されている建築物だといえます。ただし、農業をしてさえすれば誰でも建築できるというわけではないので、事前に要件を確認しなければなりません。

また、都市計画法施行規則第60条の手続きを経て建築した「農家住宅」は、サラリーマン世帯の住宅(一般住宅)として使用したり、第三者に転売したり、賃貸したりすることができません。許可なしに用途変更ができないことには注意が必要です。

ただし、長い間「農家住宅」として使用した後に、やむを得ない事情があり、用途変更が必要になった場合には、正式な手続きを踏むことにより、使用者の変更が認められる場合があります。

農家住宅から一般住宅への用途変更手続きについて詳しく知りたい方は、【相談事例】市街化調整区域の農家住宅を一般住宅に用途変更したい の記事をご一読ください。最後までお読みいただきありがとうございました。

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