農地転用手続きの申請者となるのは誰なのか、行政書士が解説

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福島県の特定行政書士、佐藤勇太です。

この記事では次の2つの論点について解説しています。

  1. 農地転用の申請者となることができる当事者(本人)、代理人とは誰なのか。
  2. 実際の申請者(所有者)と登記簿上の所有者の不一致を解消するにはどうしたらよいのか。

最後までお読みいただければ嬉しいです。

農地転用許可申請における申請者とは誰なのか

農地転用の許可申請には、農地法第4条に基づくもの(4条申請)と農地法第5条に基づくもの(5条申請)があり、申請者となる者について違いがあります。まずは、4条申請と5条申請の内容について確認してみましょう。

農地法4条許可申請の申請者

4条申請とは、自己の農地を自己のために利用するために行う農地転用のことを言います。典型的な例が、自分が所有している農地に住宅を建てるケースです。ほとんどの場合、4条申請は所有する農地の転用になりますが、すべてがそうだとは限りません。農地を賃借している人(耕作者)による転用もあり得ます。

耕作者が行う農地転用(4条申請)として考えられるのが、ソーラーシェアリングにおける支柱部分の一時転用です。ソーラーシェアリングでは、農地所有者と耕作者、そして発電事業者が一致するケースは少なく、農地所有者がパネルの下部で耕作をするとは限りません。

農地所有者と耕作者が異なる場合、発電事業者でもある耕作者が一時転用の申請をすることになります。この場合、申請者である耕作者は、農地所有者の承諾を得て、申請をすることになります。4条申請は転用事業を行う者による単独申請の形式になります。

農地法5条許可申請の申請者

5条申請とは、農地を農地以外の目的に使用するために、農地の売買・贈与をしたり、地上権や賃借権を設定したりする場合の申請です。住宅の建売分譲を例に説明すると、5条申請は、農地所有者(売主)と分譲住宅を建築するハウスメーカー等(買主)が連名で行う共同申請になります。

また、親が所有する農地について、子が贈与を受け、子が居住する住宅を建築する場合には、贈与者である親と受贈者である子が共同で申請することになります。この場合、住宅建築という転用事業を行うのは子になりますので、原則として建築費用は子が負担することになります。

5条申請における農地転用には、売買や贈与による所有権の移転を伴うものの他に、地上権や賃借権の設定が伴うものもあります。具体的な事例として多いのが、太陽光発電設備の設置を目的とするものです。このケースでは、土地所有者と発電事業者との間で、20~30年ほどの権利の設定が行われます。

なお、農地法5条許可申請の申請書では、当事者(申請者)について、所有権の移転がある場合には、譲受人と譲渡人、権利の設定がある場合には被設定人と設定人という書き方になっています。地上権や賃借権の設定の場合、どちらが被設定人なのか混乱することがあるのでご注意ください。太陽光パネル設置の場合、発電事業者が被設定人です。

農地転用の申請者となり得ないケースを紹介

ところで、主に太陽光発電設備の設置を目的とする農地転用の問い合わせの中で、「書類作成は自社で行うので、提出・補正などの窓口対応のみを依頼したい」といった相談に遭遇することがあります。このような場合、相談者が農地転用手続きの申請者の資格があるのかを慎重に確認することとなります。

太陽光発電設備の設置という事業には、多くの事業者が関わっています。そして、その中には、実際には発電事業を行わない事業者も含まれています。具体例を挙げれば、発電設備の施工・販売のみを行う事業者や用地の買収のみを行う開発業者(デベロッパー)などです。

このような事業者は、農地所有者と発電事業者の間に立って、マッチングのサービスを提供していますが、実際に転用した農地で発電事業を行うわけではありません。そのため、農地の所有者である場合は別として、農地転用の許可申請においては、当事者にも代理人にもなることができません。従って、申請書類の作成をすることはできないことになります。

ですので、転用事業(発電事業)の当事者ではなく、書類作成を行う資格のない事業者の依頼を受けて、これらの事業者が作成した書類をもとに手続きの代行をすることはできません。このような依頼を受けることは、行政書士法違反の行為に加担するおそれがあるからです

農地転用手続きにおける申請書類を作成できるのは、申請者か行政書士のみ

ご存じのことかと思いますが、農地転用の許可申請は、申請の当事者が行うか、当事者の依頼を受け、行政書士が代理人として行うのが一般的です。なぜなら、農地転用手続きにおける申請書類の作成ができるのは、申請者(当事者)か行政書士に限られているからです。

行政書士法では、官公署(役所)に提出する書類の作成を行政書士の独占業務と定めており、行政書士以外の者が業としてこれを行うことを罰則つきで禁止しています。農地転用手続きにおける申請書類は、まさに官公署に提出する書類ですので、行政書士以外の者が作成を代行することはできないことになります。

行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とする。(行政書士法第1条の2より)

行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第1条の2に規定する業務を行うことができない。(行政書士法第19条第1項より)

行政書士法第19条第1項の規定に違反した者は、同法第21条第1項第2号の規定により、1年以下の懲役または100万円以下の罰則が適用されます。知らなかったでは済まされませんので十分に注意していただきたいと思います。

農地転用手続きの申請者の住所・氏名と登記簿上の住所・氏名が異なる場合の対応

さて、いざ農地転用の許可申請をしようとした場合、登記簿をとってみたら、実際の所有者と登記簿上の所有者が一致しないというケースは少なからず発生します。相続登記や住所変更登記が義務ではないため、相続や住所変更が発生しても名義変更などをしなかったことが原因であると考えられます。

農地転用の許可申請では、転用しようとする農地の登記簿(全部事項証明書)の添付が必要であるため、申請者の住所氏名と登記簿上の名義人の住所氏名が一致していない場合、違う人物であるとみなされてしまいます。そのため、許可申請に先立って、相続登記を行うなどの対応を求められます。

相続登記は令和6年4月1日から、住所変更登記は令和8年4月までに義務化されることが決まっています。いずれについても正当な理由なく期限内に登記をしなかった場合には、過料(罰金)が科せられることになります。

登記簿上の住所と現住所が異なる場合の対応

農地転用の許可申請書には、現住所を記入しなければなりません。転居などで住所が変わった場合、現在の住民票には転居前の住所が記載されています。同じ市町村内での住所の移転はすべて現在の住民票で追うことができ、また、異なる市町村から転入してきた場合には、その転入元の住所も記載されています。

ですので、多くの場合、現在の住民票を取得することで、登記簿上の住所と現住所とを紐づけることが可能となります。住所変更登記が義務化された場合にはどうなるか分かりませんが、現時点(令和5年9月)では、住所変更登記をしなくても、登記簿上の住所と現住所を紐づける書類が提出できれば、申請は受理されます。

ただし、市町村を跨いだ住所変更が複数回あると、現在の住民票では紐づけができなくなります。この場合は、戸籍の附票を取得することで、2つの住所の紐づけを行うことになります。戸籍の附票とは、本籍を定めた時からその戸籍が存在するまでの住民票の移り変わりを記録したものです。

つまり、本籍に変更がなければ、すべての住所の移転の履歴が、戸籍の附票を取得することによって確認することが可能になります。なお、本籍が複数回変わっている場合には、戸籍をさかのぼって附票を取得することになります。戸籍の附票は、本籍地の市区町村に請求して取得します。

相続登記が行われていない場合の対応

現時点では相続登記は義務ではないため、農地転用の許可申請にあたって、役所がこれを強制することはできません。しかし、遺産分割協議が成立しているなどの条件が整っているのであれば、速やかに相続登記を行うことをお勧めします。

なぜなら、相続登記をせずに時間が経過すると、当初の法定相続人が亡くなって、2次相続・3次相続が発生してしまうからです。有効な遺産分割協議書が作成されていればよいのですが、それがない場合には、新たに作成しなければならず、相続人が増えてしまったあとでは大変な作業になります。

さて、転用の申請をする農地の相続人が決まっている場合、相続登記が行われる前であっても、遺産の分割方法が確定していることを示す書類を提出することで、実際の所有者と登記簿上の所有者との不一致が解消されることになります。

具体的にいえば、遺産分割協議書の写し、相続関係説明図、被相続人と相続人全員の戸籍謄本・除籍謄本をセットで提出することになります。つまり、相続登記の直前までは、相続手続きを進めなければならないということになります。また、5条申請の場合、公正証書遺言を提示することによって、受遺者は単独で申請ができることとされています。

行政書士より、まとめのひと言

この記事では、農地転用の申請者についての考え方について解説してきましたが、ご理解いただけたでしょうか。農地転用の手続きにおける書類作成を行うことができるのは、申請者本人または法律で認められた代理人に限られており、第三者が業としてこれを行うことは禁じられています。

また、実際の所有者と登記簿上の所有者が同一人であることを証明する方法についても詳しく解説しました。今後、相続登記が義務化されることを考えると、現在の制度の運用が変わっていくのかもしれません。

一口に相続に関する戸籍を集めると言っても、一般の方が過不足なく必要なものを揃えるのはなかなか難しいのではないかと思います。当事務所では、農地の手続きに関係するケースはもちろん、これに関係のない相続手続きについてのご相談もお受けしています。ご連絡いただければ幸いです。

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