農地転用をはじめとする農地法の手続きを進めるにあたっては、行政書士のみでは業務を完結させることはできず、司法書士や土地家屋調査士の協力を得なければなりません。中でも司法書士は、不動産の登記を通して、依頼者の権利利益の実現に寄与しています。
司法書士が農地転用の手続きに関与する場面として一般的なのは、転用の許可が下りた後の所有権移転登記です。また、農地の売買や権利の設定についての順位を確保するために、仮登記というものを行うこともあります。。
これに加えて、農地転用の前段階で相続登記が必要なこともありますし、抵当権など権利の登記の抹消が求められることもあります。これらの不動産に関する権利の登記については、すべて司法書士の手によって行われているのが通常です。
この記事では、司法書士が行う不動産登記の重要性を具体的な事例で説明した上で、農地転用の一連の流れの中で、司法書士がどのような役割を担っているのかを解説しています。
行政書士と司法書士は名称が似ていることから、一般の方にとって、担当する業務の違いが分かりにくいものです。この記事を読むことによって、この点についての理解も得られるのではないかと考えています。
司法書士が行う不動産登記(権利に関する登記)の重要性
例えば、住宅の建築を目的とする農地転用(5条申請)を考えてみましょう。この場合、土地の所有者Aと建築主Bとが共同して農地転用の申請を行い、許可を受けると建築主への土地の所有権の移転が認められます。
ただし、仮に土地の所有者が同じ土地をCにも売っていたという場合、土地の所有権はBとCのどちらが取得するのでしょうか。その回答は、民法の第177条に書かれています。
不動産に関する物件の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ第三者に対抗することはできない。(民法177条より)
民法の定めによると、Bが農地法5条の許可によって取得した所有権は、登記をしなければ、第三者のCには対抗(主張)できないということになります。この事例のように、不動産についてBとCに二重譲渡が行われた場合、先に登記を備えた方が所有権を取得できるルールとなっています。
司法書士は、不動産登記(権利に関する登記)を通して、土地の取引の安全性を保障しています。司法書士による登記がなければ、土地の権利の取得を主張することができないのです。
司法書士が行う不動産の登記申請は、農地法第3条に基づく許可の場面でも重要になります。農地法3条許可とは、農地の権利移転・設定についての許可のことですが、司法書士は、代金の支払いと登記申請の同時履行(決済)を行うことによって、取引の安全を担保する役割を担っています。
農地転用における司法書士の役割について解説
それでは、実際の農地転用の事業全体の中で、司法書士の専門性はどのように活かされているのでしょうか。ここでは、登記の予約としての仮登記、相続登記、抵当権などの抹消登記、そして権利の設定・移転登記について解説します。
所有権移転の予約としての仮登記
農地の所有権の移転には、それが転用を伴うものであれ、そうでないものであれ、農地法上の許可が必要になります。そのため、当事者が売買の合意をしてから、実際に許可が下りて所有権の移転の効果が発生するまでには、最短でも2か月ほどの時間がかかります。
その間に、売主が「売るのをやめた」と言い出したり、他の人に売ってしまったりしたら大変です。このような場合、「農地法の許可を受けることを条件に所有権が移転する」という仮登記をすることができます。
ここでいう仮登記とは所有権移転の予約のようなものなので、農地法の許可という条件が成就すれば、後から登記をした人に対して、所有権を主張できることになります。ここで司法書士は、起こりうるトラブルを未然に防ぐという役割を果たしているといえます。
農地転用に先立つ相続登記
農地転用の許可申請は、土地の所有者と転用事業者(住宅を建てる方など)による共同申請の形式をとりますが、実際の所有者と登記簿上の所有者が一致しない場合があります。そして、不一致の理由のほとんどが、相続登記を行っていないというものになります。
当然のことですが、すでに亡くなっている方が農地転用の申請者となることはあり得ません。そのため、登記簿上の所有者の名義を実際の所有者の名義に変更する相続登記が、農地転用の前段階として必要になる場合があります。そして、司法書士がこれを担うことになります。
なお、相続登記を行うにあたっては、戸籍を収集して相続関係図を作成したり、遺産分割協議書を作成したりといった業務が発生します。これらの業務については、司法書士のみではなく、行政書士も行うことができるものとされています。
農地転用に先立つ抵当権の抹消登記
抵当権とは、金融機関などからお金を借りた際に、その担保として土地や建物に設定される権利のことです。そして、債務者(お金を借りた人)がお金を返すことができなくなった際には、その土地建物が競売にかけられることになります。
抵当権が設定された農地について、農地転用の申請(5条申請)ができないわけではありませんが、申請に係る農地に抵当権が設定されている場合は、転用事業の実現を阻害する要因になることも考えられます。
そのため、その抵当権が抹消可能な場合には、司法書士が抵当権抹消の登記申請を担うことになります。また、農地転用の妨げとなる権利(地上権や賃借権など)が設定されている場合において、当事者の合意があるとき、これらの権利を抹消するのも司法書士の役割です。
登記されている仮登記の抹消登記
また、転用しようとする農地に所有権移転についての仮登記がなされているケースもあります。この仮登記は、所有権についての順位を保全するための登記で、売買の予約のような役割を果たしています。これを先に行うことによって、二重譲渡による権利の喪失を防止するわけです。
このような仮登記のことを「所有権移転請求権保全の仮登記」といいますが、土地を担保に入れ、建物を建てる際には、これをそのままにしておくわけにはいきません。なぜなら、担保にした土地の所有権が、先に仮登記をしていた第三者に移転してしまうおそれがあるからです。
この仮登記は、設定されている時期が古いものも多く、関係者を探すのが難しくなっている場合もあります。この場合には、司法書士に依頼をしても抹消までには時間がかかる可能性が高いといえます。
農地転用における権利の移転・設定の登記
所有権の移転や地上権・賃借権の設定を伴う農地転用を行うためには、農地転用の許可申請(5条申請)を行い、都道府県知事などの許可を受けなければなりません。許可を受けなければ、所有権の移転などができないという仕組みになっています。
農地転用の申請における書類作成は、行政書士の独占業務と定められていますが、許可を受けた後の権利の設定・移転については、司法書士による登記によって実現されることになります。
前述したとおり、所有権の移転や地上権の設定は、登記をしなければ第三者に対抗する(主張する)ことができません。行政書士は、農地転用の許可証が交付されると、速やかに司法書士に業務を引き継ぎ、依頼者の権利を保全していただくことになります。
農地転用のご相談を受ける司法書士の先生へ
農地転用の届出または許可申請の書類の作成は、行政書士法で定められた独占業務ですので、無資格者が行うことはできません。しかし、事業者が進めていく転用事業の全体を俯瞰すると、司法書士の先生方が果たす役割は、非常に大きいものだと考えます。
当事務所では、農地転用や農地の売買等についての手続きに関して、司法書士の先生方からのご相談やお客様のご紹介を歓迎しております。司法書士の先生のご紹介があれば、お客様のお宅や事業所に無料出張させていただいております。
無料出張については、司法書士の先生の事務所に伺い、お客様との打ち合わせに同席させていただくことも可能です。お気軽にお声がけいただければ幸いです。
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