【相談事例】農地を相続する見込みだが、管理をすることができない

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相談者:会社員(40代男性)

長年にわたり農業を営んでいた両親が高齢になり、相続について考えるようになりました。私には姉が1人いますが、遠方に嫁いでおり、遺産については私に任せると言っています。そのため、農地についても私が相続する方向になりそうです。

しかし、私は農業経験がない会社員で、実家から少し離れたところに住んでいるので、農地を適切に管理することが難しいと考えています。聞くところによれば、農地の売買や転用には許可が必要であり、勝手に売却したりすることが禁じられているとのことです。

かといって、利用していない土地に対して固定資産税を払い続けるのはもったいない気もします。適切に管理できない農地には、どのような使い道があるのでしょうか。また、その際に発生する手続きについて教えてください。

 

回答:行政書士

ご自身で耕作ができない農地の活用の方法としては、農地のまま誰かに売却または賃貸する方法と、転用して売却または賃貸する方法とがあります。そして、農地のままでの売却・賃貸と、転用して売却・賃貸する場合とでは、必要となる手続きが異なります。

農地を農地として利用することを前提とした所有権の移転や地上権・賃借権などの設定をするためには、農地法第3条に基づく許可を得ることが必要です。許可を得ないまま当事者間で売買契約等を結んでも、効力が発生しません。この許可申請は、市町村の農業委員会に対して行います。

また、農業振興地域内であるなどの一定の要件に該当すれば、農業経営基盤強化促進法に基づく利用権設定等促進事業を活用することができます。この事業では、農地法の許可を受けることなく農地の売却などが可能になり、税金の控除や登記手続きの代行などの様々なメリットを受けることができます。

一方、農地を農地以外のものにするために所有権の移転などを行おうとする場合には、農地法5条に基づく農地転用の許可を受ける必要があります。ただし、許可を受けようとする農地が市街化区域内にある場合には、届出という簡略化された手続きで済ますことができます。

 

農地を農地のまま売却するための手続き(農地法3条申請)について解説

はじめまして、行政書士の佐藤と申します。
この度はご相談にお越しくださいましてありがとうございます。

農地を農地として売却・賃貸するためには、まずはその農地で農業に従事する方を見つけなければなりません。農地を農地のまま売買する取引は、不動産業者の仲介が望めないため、買い手を探すためには、個人的なつてを頼るか、市町村の農業委員会などに相談するか、そういった方法になるかと思われます。

農地を売却・賃貸する相手方が決まったら、共同で農地法3条に基づく許可申請を行い、市町村の農業委員会の許可を受けなければなりません。なぜなら、農地法は、農地の売買などを行う際に一定の規制を加えることで、農地が資産保有目的、投機目的の対象として農業者以外の者によって取得されないようにしているからです。

農地法3条申請の許可要件

ご存じのとおり、農地を買い受けたり、借りたりできるのは個人・法人を問わず、その農地で耕作をする者に限られています。許可の申請にあたっては、相手方が確実に耕作を行うのかどうか、確認がなされることになります。農地法3条申請の許可要件は以下のとおりです。

  1. 農業経営に必要な農作業に常時従事する(年間150日以上)と認められること
  2. 農業の内容などが地域との調和に支障を生ずるおそれがないこと
  3. 申請により農地を取得した後、すべての農地を耕作すること
  4. 転貸目的ではないこと
  5. 農地の効率的な利用ができること
  6. 法人の場合、農地所有適格法人の要件に該当すること

「作業に常時従事しない(年間150日未満の)個人」、「農地所有適格法人以外の法人」についても農地を借りることはできますが、所有権の取得はできません。

利用権設定等促進事業による農地の売買・貸し借りについて解説

次にご案内するのは、利用権設定等事業による売買や貸し借りについてです。この事業は、農業経営基盤強化促進法に基づく事業で、認定農業者などの担い手に農地の集積を促進するものです。この事業を利用した農地の売買や貸し借りには、農地法3条申請が必要ありません。

要件に該当すれば、以下のようなメリットを受けることができますので、確認してみてください。

売る人・貸す人(出し手)のメリット 買う人・借りる人(受け手)のメリット
売買 ●譲渡所得税の特別控除

農用地区域の農地を売った場合、譲渡所得から800万円が控除される

●所有権移転の登記を農業委員会が代行

●登録免許税の軽減

所有権移転の登記時の税率が10/1000に軽減(変更になる場合あり)される

●不動産取得税の軽減

土地の評価額の1/3に相当する額が控除される

●所有権移転の登記を農業委員会が代行

賃貸借 ●貸した農地は、契約期間が満了すれば賃貸関係が終了し自動的に戻る(離作料は不要) ●契約期間中は、安心して耕作ができる

利用権設定等促進事業の活用の要件

出し手(売る人、貸す人)については次の条件を満たす必要があります。

  • 農業振興地域内の農地 (売買・交換は農用地区域内) であること
  • 農地が出し手名義(未相続地は不可)であり、賃借権等の使用収益権が設定されてないこと
  • 売買・交換の場合は、抵当権等、名義人以外の権利がないこと。
  • これから契約 を行うもの。(売買・交換は、すでに農地が引渡されているもの、代金の支払いが済んでいるものは扱えない)
  • 不動産業者等が仲介していないこと

受け手(買う人、借りる人)については、次の1または2に該当することが必要です。

1.市が認定した認定農業者であり、譲受地(借地)が受け手に面的に集積されかつ効率的に耕作できること。

2.次の条件をすべて満たすこと

  • 経営面積が120a以上(不耕作地を除く)あり、農用地のすべてを効率的に耕作していること(借入地含む。貸付地、未相続地は除く)
  • 農業に常時従事していること(年間 150日、1日8時間以上)
  • 譲受地(借地)は、受け手に面的に集積されかつ効率的に耕作できること
  • 地域の担い手であること(概ね65才未満)

この事業の活用を希望する場合には、地区の農業委員の現地確認を受け、農業委員会に申請書を提出し、総会での決定を受けることが必要となります。

※ 利用権設定等促進事業については、福島県郡山市のサイトを参考にさせていただきました。

農地を転用して自分のために利用するための手続き(4条申請)について解説

相続した農地を農地のまま放置せず、売却もせずに、収益をあげるために転用することが可能な場合もあります。例えばアパートを建築したり、駐車場を整備したりして不動産収入を得ることがこれにあたります。

このような場合、農地所有者=転用事業者(アパートを建てて経営する人)となりますので、農地法4条に基づく手続きを行うことになります。具体的には、都市計画法によって市街化区域に指定された区域内では届出を、それ以外の区域では許可申請を行うことになります。

アパート経営や駐車場経営は、ある程度市街化が進んでいる地域でないと需要がありませんので、そのあたりの検討も必要でしょう。また、市街化調整区域では原則として建物が建てられません。活用方法が極端に限定されますので注意が必要です。

農地法4条申請の許可の要件については、農地法5条申請の許可の要件と一緒なので、後でまとめてご説明します。

相続した農地を転用・売却するための手続き(農地法5条申請)を解説

相続した農地について、その土地に建物を建てたいという事業者などとの間で、農地の売買の話があったとします。この事業者は農業を行うつもりはないので、農地法3条の申請で土地を購入することはできません。

この場合、農地を農地以外の目的で利用するための権利の移転になりますので、この手続きは農地法5条に基づく届出、許可申請となります。市街化区域内の農地の場合は届出で、それ以外の区域の場合には許可申請であることは先に述べたのと同様です。

農地転用の許可要件(立地基準)

さて、農地法4条と農地法5条の手続きを総称して、農地転用と呼びますが、この農地転用の許可が受けられるのはどのようなケースなのでしょうか。ここからは、農地転用の許可の要件について簡単にお話しします。

農地転用の許可要件には、立地基準と一般基準の2つの基準があり、立地基準をクリアした場合にのみ、一般基準の審査がなされることになっています。立地基準とは、その農地がどの農地区分に位置しているかの判断であり、農地転用の可否は、この段階でほとんど決まってしまうといっても過言ではありません。

日本の農地は、次の5つの農地区分に分類されており、農地区分ごとに転用の可否が決まっています。

農地区分 営農条件、市街化の状況 農地許可の可否
農用地区域内農地 市町村が定める農業振興地域整備計画において農用地区域とされた区域内の農地 申請できない
甲種農地 市街化調整区域内にある特に良好な営農条件を備えている農地 原則不許可
第1種農地 10ha以上の規模の一団の農地など良好な営農条件を備えている農地 原則不許可
第2種農地 市街地化が見込まれる農地または山間地などの生産性の低い小集団の農地 周辺の第3種農地などに立地することができない場合は許可
第3種農地 市街地の区域内または市街地化の傾向が著しい区域内にある農地 原則許可

※ 農用地区域内農地については、農用地区域からの除外が認められなければ、農地転用の申請ができません。

ご自身が転用しようとする農地がどの農地区分に位置しているのか、まずはこの調査がすべての始まりです。ご自身で手続きをしようとお考えの場合には、土地の登記事項証明書や案内図などを持参して、農業委員会に相談にいかれるとよいと思います。

なお、農地区分の判定方法の詳細については、農地転用における「農地区分」の判定方法について行政書士が解説 の記事も参考にしていただければと思います。

農地転用の許可要件(一般基準)

立地基準をクリアした場合、一般基準を満たしているかについての確認が行われます。この確認は、基本的には、申請書類や図面の内容によって判断されます。そのため、法令で求められている基準を意識しながら、書類や図面を作成することが大切になります。

一般基準は、申請した事業の目的が確実に達成されるのかという観点と、周辺の農地の営農条件に支障を及ぼすことがないかという2つの観点から、基準を満たしているのかどうかの審査が行われます。具体的な審査項目は以下のとおりです。

  • 農地転用を行うのに必要な資力及び信用があると認められること
  • 農地転用の妨げとなる権利を有する者の同意を得ていること
  • 農地転用の許可を受けた後、遅滞なく、申請に係る農地を申請に係る用途に供する見込みがあること
  • 申請に係る事業の施行に関して行政庁の免許、許可、認可等の処分を必要とする場合においては、これらの処分がされる見込みがあること
  • 申請に係る事業の施行に関して法令により義務づけられている行政庁と協議を行っており、支障がない見込みがあること
  • 申請に係る農地と一体として、申請に係る事業の目的に供する土地を利用できる見込みがあること
  • 申請に係る農地の面積が、申請に係る事業の目的からみて適正と認められること
  • 申請に係る事業が工場、住宅その他の施設の用に供される土地の造成のみを目的としないものであること
  • 土砂の流出または崩壊その他の災害を発生する恐れがあると認められないこと
  • 農業用用排水施設の有する機能に支障を及ぼすおそれがあると認められないこと
  • その他の周辺の農地に係る営農条件に支障を生ずるおそれがあると認められないこと

農地法3条で取得した土地をすぐに転用してもよいのか

ところで、令和5年4月の法改正により、ごくわずかな農地しか所有していない人でも農地を購入することができるようになりました。新規参入のハードルもかなり下がっています。農地法3条での許可が下りやすくなったといえます。

心配なのは、そこで耕作をするつもりがまったくないにもかかわらず、農業を行うという虚偽の申請をして農地を購入するケースが増えるのではないかということです。農業委員会としては、3条許可を出した農地がすぐに転用されるのは避けたいはずです。

そのため、市町村によっては、3条申請で農地を購入した人が4条または5条申請で転用するまでの期間を「3年3作」とか「1年1作」というように定めて、早期の転用を制限している場合もあります。

もちろん、特別な事情があって、計画の変更の必要があるケースはあるかと思います。しかし、最初から農業をするつもりがないのであれば、虚偽の申請をするのではなく、そこで事業を開始するタイミングで転用の申請を行うのが筋ではないかと思います。

最後に、行政書士からひと言

農業従事者の減少が続いているとしても、平野部にある集積した優良な農地については、意欲のある農業者や農業法人が農地として活用するニーズがあるでしょう。また、市街地化した地域の農地では、宅地化の需要があるのではないかと思います。

しかし、中山間地域にある生産性の低い農地が日本にはたくさんあります。山間部で車を走らせていると、太陽光パネルの敷地として利用されていることも多いですが、耕作放棄地となっている農地もかなり多いです。

そうした人の手が入っていない農地は、相続登記がなされていない場合も多く、いざ利用しようとしても関係者がどこにいるか分からないケースもよくある話です。令和6年からは相続登記の義務化が始まりますが、すでに遺産分割が困難になっている事例もあります。

中山間地域の農業をどのように維持・発展させていくのか。土地の利用をどうデザインしていくのか。地方の自治体やそこで暮らす人々の課題となっているのが現状であると考えます。

私は、住民・事業者と行政をつなぐ専門家として、そうした課題を解決するために、何らかの形で寄与できればと思っています。

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