営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)における農地転用について行政書士が解説

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営農型太陽光発電とは、農地に支柱を立てて上部空間に太陽光パネルを設置し、太陽光を農業生産と発電とで共有する(シェアリング)取り組みです。農業と再生可能エネルギーの導入・活用を両立させることができることから、農林水産省は相談窓口を整備し、これを推進している模様です。

営農型太陽光発電設備を設置するための農地転用許可件数も、初めての申請があった2013年から増加の一途を辿っており、令和2年度では全国で新たに779件(農林水産省調べ)の許可がなされています。累計件数では3,474件の申請が許可されていることになります。

ただし、都道府県別の実績をみるとかなりのばらつきがみられます。日照時間などの気候的な要因もあるかと思いますが、自治体の方針によるものも大きいのではないかと想像できます。ちなみに、令和3年3月31日までの累計許可件数のトップ3は、千葉県の542件、静岡県の430件、群馬県の329件となっています。福島県と近県の件数は次のようになっています。

都道府県 累計許可件数 令和2年度許可件数
福島県 97件 7件
宮城県 121件 36件
山形県 38件 3件
茨城県 211件 50件
栃木県 67件 28件

全国的にみれば福島県の実績は決して少ない方ではないのですが、近県と比較するとやや伸びが少ないようです。

営農型太陽光発電は、農地の有効活用と再生可能エネルギーの普及に寄与するものとされていますが、取り組みが始まってからまだ10年に達していません。成功事例が紹介されている一方、パネル下部の農地で適切な営農が行われていないケースなどの課題も見受けられるようです。

この記事では、営農型太陽光発電の特徴とこれを実施するために必要な農地転用手続きについて解説します。農業経営者や発電事業者の皆様にとって、有益な情報提供になれば幸いです。

営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の特徴を解説

営農型太陽光発電は営農と発電を両立させるということが前提となっており、原則的に、その地域の平均的な単収と比較しておおむね2割以上減収しないことが必要とされています。これを担保するために、年に1回の報告義務があり、営農に著しい支障がある場合には、設備を撤去して農地に復元しなければなりません。

営農型太陽光発電という取り組みは、そもそもは農業経営者の収入の向上のためにあります。農地に支柱を立て、農地の上部空間を活用することによって、作物の販売収入に加え、売電による継続的な収入や発電電力の自家利用などによる農業経営のさらなる改善が期待できる手法として導入されたものだからです。

ですので、野立ての太陽光発電設備とはまったく違って、農業に対する強いコミットメントが求められる手法であるといえるでしょう。日照に制限がかかる環境の中で、8割以上の単収を維持することは簡単なことではないと考えます。先行事例などに基づき、事前にしっかりした営農計画を立案することが肝要です。

また、営農型太陽光発電設備の導入にあたっては、野立てのものと比較して設置コストが高いことが特徴として挙げられます。(ランニングコストを含めた事業期間中の収支については、営農型の方が有利であるといわれています。)融資などの支援策については、農林水産省がガイドブックを出しています。相談窓口の記載もありますので参考にしていただければと思います。

 営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)のための農地転用手続き

営農型太陽光発電事業を始めるにあたっては、農地に関する手続きと発電に関する手続きを並行して進めていく必要があります。農地についての手続きとは農地法や農振法上の手続きであり、発電に関する手続きとは、電力会社に対する電力系統への接続の申し込みや経済産業省に対する事業計画認定申請のことを指します。この記事では農地に関する手続きについて解説します。

農地の上部空間に太陽光パネルを設置するためには、その支柱部分について農地法4条または5条の許可申請を行う必要があります。ここでいう4条または5条申請とは、農地の一時転用のための申請です。自己が所有または賃借している農地に支柱を立てる場合には4条申請、他人の所有する農地を購入または賃借する場合には5条申請となります。

また、5条申請を行う際には、支柱を立てる部分の農地転用申請とは別個に、上部空間のパネル部分について区分地上権(または区分賃借権)を設定する必要があります。区分地上権とは、工作物を所有するため地下または空間に範囲を定めて設定される地上権のことをいいます。この区分地上権を設定するためには、農地法3条の許可を受けなければなりません。農地の権利移転に該当するからです。

許可の要件について確認

営農型太陽光発電設備の設置を目的とする農地転用の許可申請にあたっては、許可権者は以下の要件について確認することとされています。(農林水産省通知「支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取扱いについて」最終改正令和4年3月31日より)

  • 申請に係る転用期間が別表の区分に応じた期間内であり、下部の農地における営農の適切な継続を前提として営農型発電設備の支柱を立てるものであること。
  • 簡易な構造で容易に撤去できる支柱として、申請に係る面積が必要最小限で適正と認められること。
  • 下部の農地における営農の適切な継続が確実と認められること。
  • パネルの角度、間隔等からみて農作物の生育に適した日照量を保つための設計となっており、支柱の高さ、間隔等からみて農作業に必要な農業機械等を効率的に利用して営農するための空間が確保されていると認められること。
  • 位置等からみて、営農型発電設備の周辺の農地の効率的な利用、農業用用排水施設の機能等に支障を及ぼすおそれがないと認められること。
  • 支柱を含め営農型発電設備を撤去するのに必要な資力及び信用があると認められること。
  • 事業計画において、発電設備を電気事業者の電力系統に連系することとされている場合には、電気事業者と転用事業者が連系に係る契約を締結する見込みがあること。
  • 当該申請に係る事業者が法第51条の規定による原状回復等の措置を現に命じられていないこと(違反転用をしていないこと)。

別表の区分については、次のように定められています。

期間 区分
10年以内 担い手が、自ら所有する農地または賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利を有する農地等を利用する場合
荒廃農地を再生利用する場合
第2種農地または第3種農地を利用する場合
3年以内 上記以外の場合

一時転用許可に付される条件について確認

営農型発電設備の支柱を設置するための一時転用を許可するにあたっては、次に示すような条件が付けられることになります。これらの条件を満たさなくなった場合には、発電設備を撤去し、農地に復元しなければなりません。

  • 下部の農地における営農の適切な継続が確保され、支柱がこれを前提として設置される当該設備を支えるためのものとして利用されること。
  • 下部の農地において生産された農作物に係る状況を、毎年報告すること。また、報告内容について、必要な知見を有する者の確認を受けること。
  • 下部の農地において営農の適切な継続が確保されなくなった場合又は確保されないと見込まれる場合には、適切な日照量の確保等のために必要な改善措置を迅速に講ずること。
  • 下部の農地において営農の適切な継続が確保されなくなった場合若しくは確保されないと見込まれる場合、営農型発電設備を改築する場合又は営農型発電設備による発電事業を廃止する場合には、遅滞なく、報告すること。
  • 下部の農地における営農が行われない場合又は営農型発電設備による発電事業が廃止される場合には、支柱を含む当該設備を速やかに撤去し、農地として利用することができる状態に回復すること。

営農型発電設備設置のための農地転用手続きに必要な書類

それでは、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)を目的とする農地転用の許可申請の際には、どのような書類を準備すればよいのでしょうか。ここでは、福島県郡山市において必要とされている書類を例に確認していきたいと思います。かなりのボリュームになりますので、漏れのないように気をつけましょう。

1.申請書(申請の種類)

営農型太陽光発電事業を実施するにあたっては、次のような事業形態を想定することができます。そして、農地権利者(所有者)、営農者、発電事業者の三者が農地法の手続きに関係することになります。

ケース(事業形態) 申請者 申請の種類
農地権利者、営農者、発電事業者すべてが同一である場合 農地権利者(=営農者=発電事業者)の単独申請 一時転用の4条申請(支柱部分)
農地権利者と営農者が同一で、発電事業者が異なる場合 農地権利者(=営農者)と発電事業者による共同申請 一時転用の5条申請(支柱部分)+ 地上権設定のための3条申請(上空のパネル部分)
営農者と発電事業者が同一で、農地権利者が異なる場合
(発電事業者が農地を借りて、営農と発電を行う場合)
農地権利者と発電事業者(=営農者)による共同申請 農地賃借のための3条申請 + 一時転用の5条申請(支柱部分)
農地権利者、営農者、発電事業者すべてが異なる場合
(発電事業者が農地を借りて発電事業を行うが、営農は他者が行う場合など)
①農地権利者と発電事業者による共同申請
②農地権利者と営農者との共同申請
①一時転用の5条申請(支柱部分)+ 地上権設定のための3条申請(上空のパネル部分)
②農地賃借のための3条申請

2.添付書類

郡山市農業委員会事務局がホームページで公開している情報によれば、申請書の他に以下の書類の添付が必要とされています。

書類(図面) 解説
事業計画書 福島県様式第8-34号
土地の全部事項証明書 交付後3か月以内のもの1筆ごとに
※ 現住所と全部事項証明書の住所が異なる場合は、住所の経過の判るもの(住民票、又は戸籍の附票)を添付すること
公図の写し 申請地に関する土地の地番を表示する図面で、法務局備付けのものによるもの
※ 地目及び隣接する土地の地目も併せて付記し、縮尺、方位、開発区域(朱書)を明示すること
位置図 縮尺、方位、開発区域(朱書)を明示すること(縮尺 1/50,000程度)
現況図 現地調査をする場合の案内図となるもの(縮尺 1/10,000程度)
※ 特に付近の道路、水路、市街、集落、施設等の位置関係及び縮尺、方位、開発区域(朱書)を明示すること
土地利用計画図 転用候補地に建設しようとする建物又は施設等の面積、位置及び施設間の距離を表示する平面図で縮尺、方位、開発区域(朱書)を明示したもの(縮尺 1/500~1/2,000)
※ 道路法第24条関係の申請が必要になる場合は関係機関との交渉経過等を申請書に記載のこと
※ 法面は求積表を添付し、土地有効利用面積を記載すること
建築物平面図 建築物を設置する場合
用排水計画図 転用候補地内外における取水及び排水(雨水、汚水等)の河川までの経路を示す図面(現況図及び土地利用計画図に明示しても可)
※ 公共下水路へ排水する場合は関係機関との交渉経過等を申請書に記載のこと
取水・排水同意書 取水又は排水につき水利権者、漁業権者その他関係権利者の同意を得ている場合
転用候補地一覧 申請地以外に3か所程度以上。候補地の位置を示した案内図を添付し候補地の番号を記載すること
所有者同意書 所有権以外の権原に基づく申請の場合
耕作者同意書 地上権、質権又は賃借権に基づく申請の場合
資金証明 残高証明、融資証明、通帳のコピー等を添付すること
※ 証明書は発行後1か月以内のもの
※ 設備撤去に要する経費も計上し、その費用についての資金証明も必要
承諾書 他人の私道、宅地等を利用する場合は、所有者の承諾書
意見書 土地改良区(区域内の場合)、安積疎水(取水している場合)の意見書(交付後30日以内のもの)
法人登記事項証明書及び定款又は寄付行為の写し 奥書証明が必要
その他の資料 申請地を農地に戻す確約書及び現状回復計画
当該事業に関連し、他の行政庁の許認可を要するものについては、これを了しているときはその旨を証する書面、手続き中等のときは、その見込みを証する書面
建築物を建てない場合、その旨の念書
発電事業に関する資料 営農型発電設備の設計図
営農型発電設備に関する意見書(福島県様式1)交付後3か月以内のもの
営農型発電設備の下部の農地における営農計画書及び営農型発電設備の下部の農地における営農の見込み書(福島県様式2)
営農型電設備を撤去する場合の費用負担の合意を証する書面
国から発行される発電設備認定通知書
電力会社との系統連系協議を終了又は終了見込みを証する書面

営農型太陽光発電事業を営む事業者は、毎年「営農型発電設備の下部の農地における農作物の状況報告書」(福島県様式4)を提出しなければなりません。その際には、作物の生育状況が確認できる写真や、農作物を収穫した場所を図示した図面が必要になりますので、準備しておきましょう。

また、営農型太陽光発電設備の設置を目的とする一時転用の許可については、原則として3年(10年とする緩和措置あり)という期限が設けられています。転用許可の更新をしようとする場合には、期間満了3か月前までに許可申請書を提出することが求められています。

営農型太陽光発電事業を始めようとお考えの方へ

野立ての太陽光発電設備の設置を目的とした開発が、固定買取価格の低下などの理由でひと段落している現在、営農型太陽光発電事業は国の後押しもあり、堅調に伸びています。

ただし、営農型太陽光発電での農地転用申請は、通常の申請よりも求められる資料も多く、農業委員会との折衝にも時間がかかります。営農計画書の作成に関しては、農業の知見も必要とされます。また、農地権利者、営農者、そして発電事業者という三者が関係する複雑な権利関係が生じるため、農地法についてどのような申請が必要になるかの判断も難しいかもしれません。

営農型太陽光発電に伴う手続きにお困りの事業者様におかれましては、一度当事務所にご相談いただければと存じます。

※ 野立ての太陽光パネルの設置については、農地に太陽光パネルを設置するための手続きを行政書士が解説 をご参照ください。

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