農地転用における一般基準の許可要件について行政書士が解説

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農地転用は、具体的な事業計画があってはじめて許可されるものであり、単に農地を宅地に変えるだけの行為に許可が下りるわけではありません。あくまでも転用する農地で何らかの事業が行われることが前提です。

目的もなく農地をなくすことは、食料の安定供給という農地法の目的を失わせてしまいます。そのため、農地転用の許可にあたっては、住宅の建築や駐車場の整備などの転用事業が適正かつ確実に行われるのか、様々な観点から審査が行われます。

また、農地を転用した結果、周囲の農地の耕作に悪影響を及ぼすことになっても、農地法の目的を阻害してしまいます。転用事業の遂行にあたっては、周辺の農地に被害を及ぼすことがないように、必要な措置を講じなければなりません。

さて、農地転用の許可の要件には、立地基準とともに一般基準といわれるものがあります。一般基準とは、立地基準以外の基準を総称するもので、様々な基準が法令で定められていますが、大まかに言えば、2つの種類に大別することが可能です。

それは即ち、①申請目的実現の確実性についての基準と、②周辺農地の営農条件への支障についての基準です。この記事では、農地転用許可における一般基準について、できる限り詳しく、そして分かりやすく解説しています。

農地転用の立地基準と一般基準、その関係を解説

ところで、農地転用の許可においては、これから解説する一般基準よりも、立地基準の方が重要であるとされています。なぜなら、転用しようとする農地の立地によっては、検討の余地もなく許可が受けられない仕組みとなっているからです。

また、立地基準の審査は一般基準の審査に先立って行われるため、仮に一般基準の要件を明確に満たしていたとしても、立地基準の要件を満たしていなければ、一般基準の方は審査さえされずに申請が却下されてしまう仕組みとなっています。

農地転用の立地基準の許可要件を確認

すでにご存じかと思いますが、念のため農地転用の立地基準についてごく簡単に確認してみましょう。

農地は、営農条件及び周辺の市街化の状況から見て次の5種類に区分され、農地転用については、農業生産への影響の少ない第3種農地から行われるように誘導するようになっています

農地区分 営農条件、市街化の状況 転用許可の可否
農用地区域内農地 市町村が定める農業振興地域整備計画において農用地区域とされた区域内の農地 農振除外がなければ転用不可能
甲種農地 市街化調整区域内にある特に良好な営農条件を備えている農地 原則不許可
第1種農地 10ha以上の規模の一団の農地など良好な営農条件を備えている農地 原則不許可
第2種農地 市街地化が見込まれる農地または山間地などの生産性の低い小集団の農地 既存宅地、周辺の第3種農地などに立地することができない場合は許可し得る
第3種農地 市街地化の傾向が著しい区域にある農地 原則許可できる

農地転用における一般基準、その法的な根拠について解説

それでは、農地転用の一般基準で求められている要件を、農地法の規定や農林水産省の通知(「農地法の運用について」最終改正:令和5年3月31日)に従って、1つひとつ解説していきたいと思います。

農地転用の一般基準は、農地法第4条第6項第3号から第6号までにその規定が置かれています。そして、①申請目的実現の確実性に関する基準は、第6項第3号に、②周辺農地の営農条件への支障に関する基準は、第6項第4号・5号により定められています。

農地転用の一般基準、①申請目的実現の確実性について解説

申請者に申請に係る農地を農地以外のものにする行為を行うために必要な資力及び信用があると認められないこと、申請に係る農地を農地以外のものにする行為の妨げとなる権利を有する者の同意を得ていないことその他農林水産省令で定める事由により、申請に係る農地の全てを住宅の用、事業の用に供する施設の用その他の当該申請に係る用途に供することが確実と認められない場合(農地法第4条第6項第3号)

農地転用を行うのに必要な資力及び信用があると認められること

農地転用の申請にあたっては、事業計画書に資金計画の記載が求められ、添付書類として預金の残高証明書などの提出が必要とされています。これは、農地法施行規則第30条第4号で規定されている法定書類ですので、拒むことはできません。

以前はこのような書類の提出までは求められなかったため、途中で住宅建築などが頓挫してしまうようなことがよくあったそうです。また、最初から住宅建築などをするつもりなく、宅地として保有するために行う虚偽の申請があったとも聞きます。

本当に計画書に記載された転用事業をするつもりがあるのか、また、実際に事業を遂行するだけの資金があるのか、これらの裏づけをとることは役所にとって重要なことなのだろうと推察できます。

また、事業を行うのに必要な信用があるかについては、転用事業者の過去の事業実績などから総合的に判断されることになります。過去に無断転用などの農地法違反行為があり、それが是正されていないような場合には、信用があるとは認められません。

農地転用の妨げとなる権利を有する者の同意を得ていること

農地法の運用について」によれば、「転用行為の妨げとなる権利」とは、法第3条第1項本文に掲げる権利であるとされています。具体的には、所有権、地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権、その他の使用収益権がこれに該当することになります。

例えば、農地所有者が農地を転用しようとする場合、その農地を誰かに貸しているとすれば、その人の同意を得ておく必要があるということです。

また、転用行為を実行する人は、必ずしも所有者であるとは限りません。例えば賃借権の設定を受けてそこで農業を行っている者が、農地転用をする場合には、当然のことながら所有者の同意が必要です。

ところで、「転用行為の妨げとなる権利」には抵当権が入っていないことには注意が必要です。抵当権が設定されている農地の転用の場合、5条申請で農地の所有権が移転すると、新所有者は抵当権付きの土地を購入することになります。そのため、通常は農地転用に際し、事前に抵当権を抹消することがほとんどです。

しかしながら、これはあくまでも民間人同士の問題であって、農地転用の許可という公法上の問題には影響を及ぼしません。ですので、仮に抵当権付きの農地であっても、それだけの理由で転用(5条申請)が不許可となることはありません。

ただし、福島県の手引きでは、申請に係る農地に抵当権が設定されている場合や所有権移転請求権保全の仮登記が付されている場合は、農地転用実現の不安定要因であることから、抹消するか、関係者が同意していることを確認することが望ましいとされています。

農地転用の許可を受けた後、遅滞なく、申請に係る農地を申請に係る用途に供する見込みがあること

農地法では、資産保有目的での農地の所有を認めていません。そのため、農地転用の許可を受けた際には、申請時に提出した事業計画に従って、遅滞なく、目的の用途のために使用しなければなりません。

この要件を満たしているかどうかの判断になるのが、転用事業の実施にあたって必要な、農地法以外の他の法令との調整が調っているかどうかになります。

農地法の運用について」では、申請に係る事業の施行に関して法令(条例を含む。)により義務付けられている行政庁との協議を行っていない場合については、申請に係る農地を申請に係る用途に供することが確実と認められないと判断することとされています。

申請に係る事業の施行に関して行政庁の免許、許可、認可等の処分を必要とする場合においては、これらの処分がされる見込みがあること

産業廃棄物の処分施設を建設しようとする場合など、役所の許認可が必要な事業を実施しようとする場合、その事業についての許可等が下りる見込みがなければ、農地転用の許可がなされることはありません。

申請に係る事業の施行に関して法令により義務づけられている行政庁と協議を行っており、支障がない見込みがあること

許認可が必要な事業ではないとしても、法令によって役所との協議や届出が義務付けられているものがあります。農地転用の許可の後、遅滞なく転用事業に着手するためには、必要な協議等を先に済ませておく必要があります。

申請に係る農地と一体として、申請に係る事業の目的に供する土地を利用できる見込みがあること

例えば、建築物の敷地にするために土地を購入するような場合には、農地以外の土地を農地と一体として購入することがあります。この場合、一体として利用する他の土地が利用できないとなれば、農地転用を受けた土地も利用不可能となってしまいます。

そのため、事業計画において農地以外の土地が含まれている場合には、その土地が本当に利用できるかということが審査の対象となります。

申請に係る農地の面積が、申請に係る事業の目的からみて適正と認められること

農地法の目的は農地の保全と食料の安定供給ですので、転用する農地面積は、目的に応じて、最小限度である必要があります。

なお、どれくらいの面積が適正規模なのかについては、福島県の場合、個々の転用事業の内容、類似施設の通常の規模、当該農地の形状、利用の状況などを考慮しながら、転用事業ごとに判断するとされています。

また、類似施設のない施設の転用規模については、事業計画書などにおける必要性及び具体性から合理的であるか否かを判断するとされています。

申請に係る事業が工場、住宅その他の施設の用に供される土地の造成のみを目的としないものであること

農地転用の許可は、農地を宅地に変更するためだけになされるものではなく、建築物の建築などの具体的な転用事業に対してなされるものです。従って、土地の造成のみを目的とするような場合には許可を受けることができません。

申請者が工場や住宅その他の施設の建築のための土地の造成のみを行い、自らが施設の建築をせずに当該土地を処分し、申請者以外の者が施設を建築する場合、この申請は「土地の造成のみを目的とするもの」と評価されることになります。

ただし、建築条件付売買予定地とする場合のほか、「宅地分譲を目的とする宅地造成事業の特例措置」(規則第47条第5号イ~ラ)に該当する場合には、特別に許可を受けられることがあります。

農地転用の一般基準、②周辺農地の営農条件への支障について解説

ここまでは、農地転用の一般基準について、目的実現の確実性や事業の妥当性について解説してきました。貴重な農地をつぶすわけですから、その土地で確実に事業が行われるかどうかはとても重要なことだといえます。

さて、ここからは、農地転用を許可した場合の、周囲の農地に与える影響についての話になります。転用事業の実施にあたって、周辺農地に悪影響を与えることはあってはならないことでしょう。

申請に係る農地を農地以外のものにすることにより、土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあると認められる場合、農業用用排水施設の有する機能に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合その他の周辺の農地に係る営農条件に支障を生ずるおそれがあると認められる場合(農地法第4条第6項第4号)

申請に係る農地を農地以外のものにすることにより、地域における効率的かつ安定的な農業経営を営む者に対する農地の利用の集積に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合その他の地域における農地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に支障を生ずるおそれがあると認められる場合として政令で定める場合(農地法第4条第6項第5号)

上記の条文が示すところによれば、次のいずれかに該当するときには、周辺農地の営農条件に支障があるものと評価され、許可を受けることができなくなります。許可の申請にあたっては、これらに該当しないような措置を講じておかなければなりません。

土砂の流出または崩壊その他の災害を発生する恐れがあると認められる場合

  • 安全な擁壁を設置するなどの措置が必要です。被害を防ぐための対策を講じているかどうかは、添付書類の土地利用計画図などによって確認が行われます。

農業用用排水施設の有する機能に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合

  • 雨水、汚水の排水について適切な計画を立て、水路使用許可や水利権者の同意を得る必要があります。雨水や汚水の排水経路については、土地利用計画図に記入することになります。

その他の周辺の農地に係る営農条件に支障を生ずるおそれがあると認められる場合

  • 集団的に存する農地を蚕食、または分断するような利用を避ける必要があります。
  • 日照や通風について、周囲の農地への影響を及ぼさないような措置を講じなければなりません。
  • 農道、ため池その他の農地の保全に努め、営農上必要な施設の維持管理に協力しなければなりません。

農地転用の一般基準を満たすために大切なこと

農地転用の許可には立地基準と一般基準がありますが、多くの場合、許可の阻害要因となるのは立地基準になります。なぜなら、立地基準については、土地の位置を動かすことは不可能であるため、対策のしようがないことがほとんどだからです。

これに対して、一般基準については、事業を行う申請者側の対応によって、不許可に該当するような案件に許可がなされることもあり得ます。大切なのは、許可に必要な対応を講じることであり、そのためには、要件として何が求められているのかを知ることが大前提です。

また、一般基準の審査には、実現が難しい転用事業をあらかじめ排除するという機能を持つものだと考えることができます。ご自身の事業について、見直しをするためのきっかけとなるかもしれません。

この記事で解説した内容が、農地転用の申請をしようとお考えの方のお役に立てたとしたら、これに勝る喜びはありません。最後までお読みいただきありがとうございました。

※ 農地区分の判定方法については、農地転用における「農地区分」の判定方法について行政書士が解説  で詳しく解説しています。

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