私は、福島県内で農業を営んでいます。
これまで田んぼとしてコメを生産していた農地に土を入れて、これからは畑として使いたいと考えています。
農地として使用することに変わりはないので、農地転用には当たらず、役所での手続きは不要だと思うのですが、間違いないでしょうか。
もし、何か手続きが必要なのであれば、どのような手続きになるのでしょうか
一定の要件に該当すれば、農地転用として取り扱われず、農地転用の手続き(届出または許可申請)を行う必要はありません。
ただし、ほとんどの自治体では、行政指導により、事前に届出をすることが求められていますので注意が必要です。
この届出は「農地改良行為(工事)届出」などと呼ばれています。届出の書式や内容、添付書類は、市町村ごとに異なりますので、まずは農業委員会に相談に行かれるとよいと思います。
農地改良行為とはどのような行為を指すのか
一般に、農地改良行為とは、水はけの悪い農地に耕作に適した良質土を入れたり、田を畑にするために土入れをしたりするなど、農地の保全や利用の促進、生産能力の向上といった農業経営の改善を目的とする行為を指します。
そして、一定の範囲内での盛土などについては、農地転用とは取り扱わず、農地転用の手続きを不要としています。福島県の農地法関係事務処理の手引(P128)によれば、以下の要件のすべてを満たす行為が農地改良行為に該当します。
- 農地の耕作者自ら施工する農地改良行為であること
- 盛土を伴う場合は、耕作に適した良質土のみを使用すること
- 施工期間が3ヶ月以内であること
- 施工面積が10a以下であること
- 造成高が現況より原則として概ね1m以下であること
※傾斜地等の位置によって高低差がある場合は、造成レベルから隣接地の最低部までの高低差が2m(山間地において2m)以下であること。山間地として取扱う地域は、農業委員会で大字程度の範囲内で実情に応じて判断すること。 - 農地改良行為が廃棄物の処理及び清掃に関する法律、採石法、砂利採取法等の他法令の対象とするものでないこと
注意すべき点としては、造成や盛土が建設工事で発生した残土によって行われる場合には、土砂を捨てることが主たる目的であると判断されるため、農地法上の手続きが必要になるということです。
なお、手引によれば、3,4,5の要件を満たさないものであっても、その行為が生産性の向上などの農業経営改善につながる場合には、農地改良行為として取り扱うこととされています。
農地改良行為の届出について解説
先に述べたとおり、農業経営の改善を目的とする行為で、農地を農地のまま使用し続ける場合でも、市町村の要綱などに基づく届出が求められています。ちなみに要綱とは、行政手続法上の行政指導指針(ガイドライン)であるため、法的な拘束力はありません。
それはともかく、各自治体において、この「農地改良行為(工事)届」の提出については、どのような規定が置かれているのでしょうか。福島県いわき市のいわき市農業委員会農地改良工事届に係る事務処理要綱を例に、具体的に解説していきたいと思います。
※ いわき市では農地改良「行為」ではなく、農地改良「工事」という呼び方をしていますが、実際には同じことを指すものとして理解してください。
農地改良工事の定義
いわき市の要綱においては、農地改良工事を次のように定義づけています。
第2条 この要綱において「農地改良工事」とは、農地の所有者又は耕作者(以下「所有者等」という。)が、農地の保全又は利用の増進といった農業経営の改善を目的として行う、盛土、切り土、掘削、その他農地の形質変更を伴う行為をいう。
そして、これに該当する要件は、福島県の手引による規定と同じものとしたうえで、遵守すべき事項として、以下のような規定を置いています。
- 面積10a、盛土の高さ1m、工事の期間3か月を超える工事については、農業委員会と事前協議をすること
- 盛土を行う場合は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律第2条2項に項に定める一般廃棄物又は同条第4項に定める産業廃棄物を使用してはならないこと
- 面積が3,000平方メートル以上、又は工事期間が6ヵ月以上の農地改良工事については、農地法第4条第1項又は第5条第1項の規定による一時転用の許可を要すること
※ 農地の一時転用の手続きについては、農地の一時転用、許可の要件と手続きについて行政書士が解説 の記事で詳しく解説しています。
農地改良工事の届出書と添付書類
福島県いわき市における農地改良工事届の様式は、次のような書式となっています。農地改良工事を実施する所有者等は、工事施工の1か月前までに、届出書と添付書類を農業委員会に提出しなければなりません。
※届出書の様式は次のとおりです。リンクをクリックするとダウンロードすることができます。
また、届出書に添付する書類としては、以下のものが求められています。
- 土地の登記事項証明書
- 公図の写し(隣接地を含む)
- 案内図
- 地元区長の同意書
- 工事計画図面(計画平面図及び計画断面図)
- 工事工程表
- 工事請負契約書の写し(建設業者等に工事を請け負わせる場合)
- 誓約書
- 現況写真(着工前)
- 他法令等の手続きを要する場合、関係機関へ提出した申請書の写し又は当該許可等を証する書面の写し
- その他必要な書類
他の自治体ではここまで多くの書類が必要になることは稀だとは思いますが、意外にたくさんの書類の収集・作成が求められることがお分かりではないでしょうか。ご自身で揃えることが難しい場合には、ぜひご依頼いただければと思います。
まとめ ~どうして農地改良行為の届出が必要なのか~
全国的に農地改良行為の届出が求められるようになった背景には、農地を建設残土の捨て場としたり、産業廃棄物の不法投棄の場所としたりする業者の存在、そしてそれを許容する農地所有者の存在があります。
農業委員会には、農地を保全したり、周囲の農地に悪影響を及ぼすことのないように配慮する責任があります。そのため、農地を農地として使い続ける場合であっても、盛土などの行為をする場合には、事前に計画の届出を求め、計画が適切かどうか審査する必要があるということになります。