【インタビュー】農地転用の仕組みを分かりやすく教えてください

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―本日は、農地転用の手続きを専門とする行政書士の佐藤勇太さんに、農地転用の仕組みについてお話を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。

行政書士の佐藤です。どうぞよろしくお願いいたします。

農地の立地によって異なる農地転用手続き

―最初にお伺いしますが、農地転用とはどのような行為のことをいうのでしょうか。

法律上の定義では「農地を農地以外のものにすること」になります。農地とは、田や畑のことで、耕作するための土地ですが、これを別の目的で使用するために土地の形や性質を変えることを農地転用と呼んでいます。

住宅を建てるために土地の造成をしたり、駐車場にするためにアスファルトで舗装したりして、田や畑を耕作でいない土地に変えてしまう行為のことといえばイメージがしやすいでしょうか。

―農地を転用する際には、届出や許可が必要だということですが、どうしてなのでしょうか。

国民に対して食料を安定して供給するためです。農地は食料生産の基盤となるものですので、農地を転用することに一定の制限をかけることによって、食料自給率を維持し、さらに高めようとする意図があります。

ご存じのとおり、日本の食料自給率はカロリーベースで38%(2024年)となっており、先進国の中でも最低の水準となっています。政府は、2030年までに、食料自給率を45%まで引き上げようと考えています。

―農地転用の手続きにはいくつかの種類があると聞きましたが、どのようなものがあるのでしょうか。

農地転用の手続きについては、農地法という法律の中に決まりがあります。

自分が所有する農地や借りている農地を転用する場合の手続きは、農地法第4条で定められているため「4条申請」と呼ばれており、農地を転用する目的で農地の売買や貸し借りをするための手続きは、農地法第5条で定められているため、「5条申請」と呼ばれています。

―役所に相談に行くと、専門的な用語で説明されることもあるので、覚えておきたいものですね。ところで、農地転用の手続きは自分たちでもできるものなのでしょうか。

そうですねぇ…。農地転用の難易度は、転用しようとする農地の立地によって差があります。都市計画法によって市街化区域に指定されている区域内では、事前の「届出」という簡易的な手続きで済みますので、一般の方でも可能かもしれません。

ですが、その他の区域内での農地転用は、「許可申請」を行い、許可を受けなければならず、法令の知識や書類・図面作成の技術がより必要になります。行政手続きの専門家である行政書士に依頼することをお勧めします。

自己転用 転用+売買等
市街化区域内 農地法4条届出 農地法5条届出
市街化区域以外の区域内 農地法4条許可申請 農地法5条許可申請

―そうなりますね(笑)。今おっしゃったことに関係しますが、許可申請が必要となる市街化区域以外の区域とはどのような場所のことなのでしょうか。

市街化区域やそれ以外の区域というのは、都市計画法という法律の中で定められている区域になります。農地転用の手続きをする前提として押さえておきたいのが都市計画法上の区域区分です。農地法上の「農地区分」とは別の話になりますので、明確に区別してくださいね。

都市計画法は、市街地を中心として、1つのまとまった都市として整備・開発または保全すべき区域を都市計画区域として指定しています。都市計画区域には、市街化(宅地化)を進めていく区域である「市街化区域」と市街化を抑制する区域である「市街化調整区域」があります。

都市計画区域内を「市街化区域」と「市街化調整区域」とに区域区分することを「線引き」と呼んでいますが、都市計画区域には「線引き」がなされていない区域もあります。このような区域を「非線引き」都市計画区域と呼んでいます。

また、日本の土地には都市計画区域に指定されていない区域(無指定区域)や準都市計画区域と呼ばれる区域もあります。すみません、話が難しくなっちゃいましたね(笑)

(国土交通省の資料より)

―市街化調整区域の農地転用は難しいのでしょうか。

お話ししたとおり、市街化調整区域は宅地化を抑制する区域とされていますので、原則として建物を建てることができません。そのため、市街化調整区域に建物を建てたい場合には、原則として、農地転用と並行して「開発許可」を受けなければなりません。敷地の面積にかかわりなくです。

市街化調整区域で開発許可を受けるための要件は厳しいため、この区域で建物の建築を目的とする農地転用を実現できるケースはかなり限定されています。もっとも、建築物の建築を伴わない農地転用(駐車場や資材置場、太陽光パネル)については、可能性は広がります。開発許可が不要であるからです。

農地転用の許可基準について解説

―少し話は変わりますが、農地転用が許可されるかどうかはどのように判断されるのでしょうか。

農地転用の許可基準には、立地基準と一般基準の2つの基準があります。許可を受けられるかどうかの判断は、まず立地基準をクリアできるかどうかを検討することになります。そして、その際に重要となるのが「農地区分」という考え方です。

実は、日本の農地は以下のように区分され、「ランク付け」されています。そして、高いランクの農地は原則的に農地転用の許可を受けられない仕組みとなっています。優良な農地は食料の安定供給のために残しておきたいからですね。

農用地区域内農地(青地) 直接の申請ができない

農用地区域内農地(青地)とは、「農業振興地域の整備に関する法律」によって、今後長期間にわたって農業が営まれるものとして市町村が指定した農地のことです。ほ場整備などの公共投資が行われている生産性の高い農地です。

ですので、この農地を転用するためのハードルは高く、時間がかかるものとなっています。具体的には、農地転用の申請に先立って、「農振除外」という別の手続きを経なければなりません。農振除外については、2024年4月現在「国の関与」が検討されるなど、要件がより厳しくなる方向に進んでいます。

甲種農地 原則として不許可

甲種農地とは、市街化調整区域内にある特に良好な営農条件を備える農地のことをいいます。農業公共投資がなされてから8年以内の農地であることも甲種農地の条件です。そのため、甲種農地を転用することは、例外として認められる場合を除き、許可されません。

第1種農地 原則として不許可

(第1種農地のイメージ)

第1種農地とは、①おおむね10ha以上の一団の農地、②農業公共投資がなされた農地、③高生産性農地、のいずれかを満たす農地のことをいいます。第1種農地についても法令で示されている例外的なケースを除き、許可を受けることができません。

もっとも、第1種農地における農地転用の許可要件を行政書士が解説 にて解説しているとおり、よく検討すると転用できるケースが意外と多いことが分かります。転用しようとする農地が第1種農地である場合、より詳しい調査・検討が必要となります。

第2種農地 他の土地で代替できる場合などは不許可

(第2種農地のイメージ)

第2種農地とは、①「第3種農地に近接する区域」または「市街化が見込まれる区域内」にある農地、②中山間地域に存在する農業公共投資の対象となっていない小集団の生産性の高くない農地、のいずれかに該当する農地のことです。

第2種農地の転用が許可されるためには、宅地などの他の地目の土地や第3種農地を利用することでは、事業の目的が達成できないことが求められます。実務上は、「土地選定理由書」という書類を作成し、申請地でなければ目的が達成できないことを役所に示すことになります。

第2種農地の転用については、第2種農地を転用して住宅を建てるための手続きを行政書士が解説 で詳しく解説していますのでご参照いただければと思います。

第3種農地 原則として許可

(第3種農地のイメージ)

第3種農地とは、市街化・宅地化が進行している区域内の農地のことをいいます。第3種農地の転用は、一般基準を満たす限り、許可が受けられることになります。

―市街地に近い面積の小さい農地ほど転用がしやすいようですね。それでは一般基準とはそのような基準なのでしょうか。

一般基準とは立地基準以外の基準を総称するもので、大まかにいえば、①「申請目的実現の確実性」についての基準と、②「周辺農地の営農条件への支障」についての基準、の2つに区分することができます。具体的な内容としては、次のとおりです。

①申請目的実現の確実性については、以下の基準を満たすことが必要とされています。

  •  農地転用を行うのに必要な資金と信用があること
  • 農地転用の妨げとなる権利を有する者の同意を得ていること
  • 農地転用の許可を受けた後、すぐに転用の目的となる事業に着手できること
  • 他の法令などに基づく行政庁の免許、許可、認可等の処分を必要とする場合には、これらの処分がされる見込みがあること
  • 他の法令により義務づけられている行政庁と協議を行っており、支障がない見込みがあること
  • 転用する農地と一体として利用する土地がある場合、その土地を利用できる見込みがあること
  • 転用する農地の面積が、事業の目的からみて適正と認められること
  • 工場、住宅その他の施設の用に供される土地の造成のみを目的としないものであること

―たくさんの基準があっていっぺんに理解するのは難しいです。

1つひとつの基準についてじっくりご説明すると時間がいくらあっても足りませんので(笑)、ごく大雑把に言います。

農地転用がなされると貴重な農地がつぶされるわけですので、許可が無駄に終わったのではもったいないですよね。ですので、許可が下りた際に申請者がすぐに工事に着手できるのか、資金面や法令上の制限をきちんとクリアできているのか、ここで審査が行われることになります。

また、②周辺農地の営農条件へ支障を及ぼすことがないよう、以下のケースに該当する場合は、許可が受けられません。

  • 土砂の流出や崩壊その他の災害を発生するおそれがある場合
  • 農業用の用水路や排水施設の有する機能に支障を及ぼすおそれがある場合
  • その他周辺の農地の営農条件に支障を生ずるおそれがある場合

役所が農地転用の許可を出した結果、その周辺の農地の営農に支障が出たらまずいですよね。苦情が来たりすると対応が大変です。ですので、宅地の造成や太陽光パネルの設置などによって、土砂崩れが起きたりしないように配慮する必要があります。

農地転用の許可までの流れ

―ありがとうございます。立地基準も一般基準も多くのことを考慮しなければならないことが分かりました。それでは最後に、農地転用の許可申請について、許可が出るまでの流れについて教えてください。

まず、お客様からのご相談があってから、許可が出るまでの行政書士と役所の動きについては次のようになります。おおよその流れとして理解してください。

行政書士 農業委員会
①相談 転用できるかどうかの検討
②事前調査 登記簿などの資料調査・現地調査
③事前相談 農業委員会事務局との協議 行政書士との協議
④書類作成 申請書・添付書類の作成・収集
⑤書類提出 申請書類の提出 申請書類の受理
⑥審査 提出書類についての審査
⑦現地確認 現地確認立ち合い 農業委員会による現地確認
⑧農業委員会総会 総会で裁決
⑨許可 許可証の受領 許可証の交付

これは、市町村に農地転用の許可の権限が委譲されているケースになります。権限が委譲されていない場合には、許可の決定をするのが都道府県知事となりますが、いずれにしても相談や申請の窓口は市町村の農業委員会事務局となります。

農地転用の申請は、ほとんどの場合、月に1回の締切日があり、その締切日までに行われた申請について、農業委員会などでの裁決がなされる仕組みになっています。ですので、締切日に間に合わないと、申請は1か月遅れてしまうことになります。なお、申請から許可までは、大規模な案件でない限り、1か月程度です。

―相談から農地転用の許可申請まで、どれくらいの期間がかかりますか。

これはケースバイケースです。例えば、住宅を建てる場合には、土地の境界の確定のために土地家屋調査士による測量が入ることが多いです。測量については最短でも1~2か月かかります。

また、先程お話ししたとおり、申請農地が青地である場合は、農振除外の手続きが必要です。この手続きには最短でも6か月はかかります。土地改良区の受益地となっている場合には、こちらの除外手続きも前もって必要になります。

行政書士としては、なるべく早期に申請するよう心がけていますが、農地転用は他の法令や要綱などの手続きが絡むことがほとんどです。見落としがあるとお客様の事業が進みません。スピードと確実性を両立できるよう努めているところです。

―今日はお忙しい中ありがとうございました。

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