こんにちは。福島県の行政書士、佐藤勇太です。
この記事では、農地転用をお考えの皆様へ向けて、基本的なルールを分かりやすく解説いたします。農地転用の許可申請は、ここで解説する内容を踏まえて、市町村の農業委員会事務局と相談しながら手続きを進めていくことになります。皆様の転用事業の成功のための参考になれば幸いです。
農地転用の基本ルールを行政書士が分かりやすく解説
農地を耕作の目的以外の用途で使用するためには、都道府県知事や市町村の農業委員会の許可(市街化区域内の農地の場合は届出)を受けなければなりません。農地転用が許可されるためには、大きく分けて立地基準と一般基準の2つの基準をクリアする必要があります。
立地基準、一般基準の詳細な内容については他の記事に譲るとして、以下では私が重要であると考える農地転用の7つの基本的なルールについて解説しています。「農地転用で失敗したくない」とお考えの皆様に向けて書きましたので、どうぞご一読ください。
① 農地転用には目的がなければならないこと
農地転用とは農地を農地以外のものにする事実行為(現況を物理的に変更すること)を指しますが、これを行うには住宅を建てるなどの具体的な目的がなければなりません。後で売買をしやすくするために、とりあえず農地を造成して宅地にしておきたいと考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、このような「資産保有目的」での転用は認められません。
②転用事業が確実に行われなければならないこと
仮に農地転用が許可されたとしても、そこで実施する事業計画が頓挫してしまえば、その農地はただ潰されただけとなります。転用許可の意味は何もなくなってしまいます。ですので、農地転用の許可申請の際には、転用事業が確実に行われるかどうかが審査の対象となります。
例えば、住宅を建てるという事業であれば、その資金がきちんと確保されているという確認が、銀行の残高証明書などによって行われます。
③許可が出されてらすぐに転用事業を行わなければならないこと
上記と深く関係することですが、農地転用は申請が許可された後、遅滞なく転用事業が行われる見込みがなければなりません。例えば、1年後に住宅を建てるための申請はできないという仕組みです。また、農地転用の許可以外に他の法令による許可が必要であれば、その許可が下りる見込みがあることが求められます。
④ 農地転用する面積は必要な分だけでなければならないこと
農地法は基本的には農地を保全しようという考え方に基づいています。そのため、農地転用では、必要な面積を超えた転用は許可されないような仕組みになっています。例えば一戸建ての住宅(一般住宅)の建築の場合、500㎡以内に制限されている自治体が多くみられます。
そのため、場合によっては農地を測量・分筆したうえで農地転用の申請を行う必要があります。測量と分筆は土地家屋調査士の業務となります。
⑤農地転用は低いランクの農地から行わなければならないこと
日本の農地は、農振農用地・甲種農地・第1種農地・第2種農地・第3種農地の5つに分類されています。そして、転用するのであれば、できるだけ農業生産性の低い農地(第3種農地や第2種農地)から転用するように求められます。
原則として、転用できる農地は第3種農地とされています。第2種農地は、農地以外の土地や第3種農地ではその転用事業ができないという理由づけが必要です。つまり、田んぼが一面に広がるような優良な農地を転用することはできないということになります。農地区分については、他の記事で詳しく解説しておりますのでご参照ください。
※ 農地区分とその判断方法については、農地転用における「農地区分」の判定方法について行政書士が解説 の記事で詳細に解説していますのでご覧ください。
⑥ 農地転用の際には周囲の農地に悪影響を及ぼしてはならないこと
農地転用の際に気をつけなければならないのは、転用後に周囲の農地に悪影響を与えないような配慮をしなければならないということです。農地転用の申請書には、「転用することによって生じる付近の土地・作物・家畜等の被害の防除施設の概要」として、以下の3点の記載が求められます。
- 土砂の流出等の災害を防止するための措置
- 農業用用排水施設の有する機能に支障を及ぼさないための措置
- 周辺の農地に係る営農条件(集団農地の蚕食又は分断、日照等)に支障を及ぼさないための措置
実務上最も重要なのが、雨水や汚水をどのように処理するかです。土地をアスファルトなどで舗装すれば雨水が自然浸透しなくなりますし、住宅などの建物を建てれば人の生活で生じた汚水が発生します。これらの水をどのように処理し、排水するかを申請の際に図面や文面で説明する必要があります。
⑦ 農地転用の他にも必要な手続きがあること
農地を駐車場にしたり、住宅を建てたりするためには農地転用の許可が必要ですが、農地転用のみで完結する手続きはほとんどありません。先に解説したように、事前に測量・分筆が必要な場合があります。また、転用事業が完了したときには、地目を変更しなくてはなりませんし、所有権移転登記が必要な場合もあります。
その他にも、申請する農地の位置や面積によっては、開発許可申請などの都市計画法上の手続きが必要な場合もあります。転用する農地が農振農用地(青地)であれば、先に除外の申請をしておかなければなりません。また、土地改良区の受益地となっていれば、除外の手続きも必要になります。
農地転用をお考えの皆様は、付随する手続きについても怠らないように気をつけなければなりません。そのため、事前にしっかりとした調査を行うことが重要です。
農地転用の「よくある質問」に行政書士が回答
それでは、農地転用について当事務所に寄せられる「よくある質問」とその回答を7つご紹介します。これまで解説した「基本ルール」と重なる部分もありますが、より深く理解するためにどうぞご一読ください。
A 法令で様式(フォーマット)が定められた申請書のほかに、農地法施行規則第30条で規定されている書類の添付が求められています。具体的には次の書類になります。
- 申請者が法人の場合、定款の写しまたは法人の登記事項証明書
- 位置図(土地の位置を示す書類)および土地の登記事項証明書
- 土地利用計画図(設置しようとする建物その他の施設及びこれらの施設を利用するために必要な道路、用排水施設その他の施設の位置を明らかにした図面)
- 資金証明書(事業を実施するために必要な資力及び信用があることを証する書面)
- 農地を転用する行為の妨げとなる権利(賃借権など)を有する者がある場合には、その同意があったことを証する書面
- 土地改良区の意見書(土地改良区の区域内にある場合)
- その他参考となるべき書類
なお、農地転用許可申請の添付書類について詳しく知りたい方は、農地転用の手続きで必要な添付書類について行政書士が解説 をご参照ください。
A 申請書類が受理された場合には、かなりの確率で許可が下りるものと考えます。許可が下りないような案件では、申請前に農業委員会事務局から「許可は難しい」と言われます。許可が難しいといわれるケースとしては、申請農地が第1種農地や農振農用地(青地)である場合が多いでしょう。
また、立地基準と一般基準を満たしていたとしても、申請者が他の農地を違反転用している場合、許可を得た転用事業を適切に実施していない場合も、申請は受けつけられません。このようなケースでは、事前に違法状態を解消しておく必要があります。
A 農業振興地域内農用地区域内農地(農振農用地)を転用するためには、農地転用の許可申請に先立って、農振除外の手続きを済ませることが必要です。農振除外の手続きにあたっては、農地転用の許可の見込みがあることが必須です。なお、農振除外の手続きについて詳しく知りたい方は、青地農地を転用するための農振除外の手続きを行政書士が解説 をご参照ください。
A 農地法は、市街化区域の農地を除き、今ある農地をできるだけ保全しようという思想に基づいています。したがって、転用する面積は必要最小限でなければなりません。つまり、転用できる面積の考え方としては、「必要な土地利用計画面積の積み重ね」となります。当然、必要な面積は目的や案件によって異なります。
ただし、ガイドラインなどによって、転用面積の上限の目安が定められているケースもあります。住宅の場合、一般住宅では500㎡、農家住宅では1000㎡が上限であることが多いです。また、いわき市では、低圧(出力50kw未満)の太陽光発電設備について、「パネル設置面積が500㎡程度、通路及びメンテナンススペース等として500㎡程度の合計1000㎡程度が適正面積である」という基準を示しています。
A 「法律上できる」のと「実際にできる」のとでは意味が異なります。もちろん、申請者本人が自分で書類を作成し、役所に提出することは法律上問題ありません。しかし、実際に書類作成や図面作成をご自身ですべて行うのはかなり難しいものと考えます。なお、農地転用について、農業委員会などに提出する書類の作成を本人に代わってできるのは行政書士です。
A 農地転用の許可をする行政庁(許可権者)は転用面積によって、市町村農業委員会の場合、都道府県知事の場合、そして農林水産大臣の場合があり、異なります。しかし、いずれの場合であっても相談窓口は、申請する農地が所在する市町村の農業委員会の事務局であることがほとんどです。
ただし、開発許可が関係する場合には都市計画課、農振除外が関係する場合には農業振興課(農業政策課)など、役所の他の部署との相談が必要となる場合がありますので注意が必要です。
おわりに ~農地転用許可制度の目的と役割~
違反転用が農業委員会のパトロールなどで発覚し、是正を求められたのをきっかけに、農地転用の許可申請のご依頼が入ることがあります。農地法では、農地を農地以外のものにする(転用する)こと、転用目的で農地の権利を移転・設定することに事前の許可を要求しています。そのため、違法状態の解消を役所から命じられることになります。
許可なしの転用行為に対しては、原状回復命令や罰金などの重い処分がなされる場合があります。また、許可なしでの農地の権利移転は法律的に無効であり、売買契約を交わしても効力が生じず、所有権移転登記ができません。日本では土地は私有財産として認められているのに、どうしてこのような制限があるのでしょうか。
農地は、日本国民に対して安定して食料を供給するためになくてはならないものです。現在でも、多くの食料は外国からの輸入に頼ってはいますが、戦争や災害等で輸入がストップした場合を考慮すれば、一定の食料自給率を維持することは重要なことでしょう。農地の利用規制は、食料安全保障のために存在しているといえます。
一方、日本の農業をとり巻く現状は厳しく、担い手の高齢化や農産物の価格低迷により離農が進み、耕作放棄地が増加の一途をたどっています。現在、全国の耕作放棄地は40万㎡程あるとされ、この面積は埼玉県の面積に相当する大きさです。この広大な耕作放棄地については、農地の保全と開発のバランスを考慮して活用していくべきだと思います。
農地転用許可制度は、農地の保全と開発の調和を図るために設計された制度です。転用を進めようとする皆様は、法令に従って手続きを進めていくことが大切でしょう。