一般に、市街化調整区域では、開発行為が禁止されているため、農地に住宅を建てることができません。農地を宅地に変更することは、建物の建築のために行う土地の区画形質の変更にあたり、禁止されている開発行為に該当するからです。
しかし、都市計画法によって市街化調整区域に指定される前から、その地域で農地を所有し、生活してきた世帯の親族が住宅を建てる場合には、開発行為が許可され、住宅を建てることができる場合があります。そのためには、都市計画法第34条第1項第12号を根拠とする「分家住宅」の要件を満たすことが必要です。
この記事では、分家住宅に該当するための要件と要件に該当することを証明する書類、そして手続きの概要について解説をしています。分家住宅に該当するかどうかの判断は、都道府県の条例で定められた基準によって行われることとされています。そのため、お住まいの地域によって要件が異なる場合があることには注意が必要です。
分家住宅とはどのような住宅なのか
それでは、分家住宅とはいったいどのようなものなのか、まずは具体的な事例をもとにイメージしてみましょう。
Aさん(65歳)の世帯(「本家」と呼びます。)は昭和の初め頃からこの地域で農業を営んでいます。Aさんが所有している農地は、昭和40年代に市街化調整区域に指定される前から、先祖代々Aさんの世帯が所有していた土地です。
Aさんの子どもであるBさん(35歳)は、Cさん(35歳)と結婚し、当初はアパートに住んでいましたが、子どもが生まれたこともあり、住宅が必要になりました。このケースでのBさんの世帯を「分家」と呼びます。
Bさんは住宅建築が可能な土地を探しましたが、適当な土地が見つかりません。そこで、Aさんからその所有する市街化調整区域の農地を譲ってもらい、新たに住宅を建てることにしました。この新しく建てることになる住宅を「分家住宅」といいます。
分家住宅の要件を分かりやすく解説
都市計画法の施行に伴って、都市計画区域に指定され、市街化区域と市街化調整区域とに「線引き」が行われた市町村では、住宅を建てる際には、市街化区域で土地(宅地)を探すことになります。繰り返しになりますが、市街化調整区域では、原則として建物を建てることが禁止されているからです。
しかし、市街化調整区域に指定される前からその土地を所有し、そこで継続的に生活をしてきた本家から譲り受けて住宅を建てる場合には、周辺地域と調和のとれた土地利用の範囲で行われる限り、支障がないものと判断されることがあります。また、長年その地域内で生活してきた世帯の生活権は保障されなければなりません。
そのため、建築物の建築が禁止されている市街化調整区域においても、例外的に開発許可を受けることができるとされ、住宅の建築が可能となります。それでは、福島県の運用基準に従って、分家住宅と認められる要件を確認してみましょう。以下のすべての要件に該当することが必要とされています。
申請者(分家住宅を建てる方)の要件
- 現に土地を譲渡する者の世帯(本家)の構成員であること、または過去に本家の構成員であったこと
- 原則として相続または生前贈与により土地の所有権を取得すること
- 土地を譲渡する方(本家)の子、孫などであること
- 現に住宅を所有しておらず、結婚などの合理的理由により、新規に住宅を確保して独立した世帯を構成する必要があること
※申請者が上記の要件に該当しなくても、その配偶者が該当していれば連名で申請することで許可を受けることが可能になります。
本家(土地を譲渡する方)の要件
- 申請者(分家する方)に土地を譲渡する方は、市街化調整区域決定の日(昭和45年10月15日)の前から、引き続きその地域に生活の根拠をもつ世帯の構成員であること
- 市街化区域内に、譲渡できる住宅建築可能な土地を持っていないこと
土地の要件
- 本家世帯が、市街化調整区域決定の前日までに取得し所有している土地であること
- 原則として、周囲が宅地化された地域内にある土地であること
- 原則として、敷地面積が500㎡以内であること
- 道路に接続していること
建物の要件
- 申請者(分家する方)自身が居住する専用住宅であること
- 住宅の規模は、280㎡以内とすること
- 車庫については、45㎡以内を基準とし、住宅とのバランスにより個別の判断とすること
※上記の要件は、あくまでも福島県の要件です。要件は自治体によって異なる点がありますので、事前に確認をお願いします。
分家住宅に該当することを証明する書類を確認
これまでに解説してことから、分家住宅と認められるためには、多くの要件を充たさなければならないことがお分かりかと思います。そして、要件を充たしているという事実は、書類によって役所に証明しなければなりません。
それでは、分家住宅に該当することを証明する書類とは、どのようなものなのでしょうか。要求される書類を福島県郡山市の例をもとに確認してみましょう。
申請者(分家住宅を建てる方)の要件を充たすことを証明する書類
土地贈与承諾書(分家に関する申立書) | 本家から土地を贈与してもらい、新たに独立した世帯を持つこと(分家すること)を宣誓します。 |
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戸籍謄本、住民票(世帯全員のもの) | 申請者(分家する方)と土地を提供する方(本家)との親族関係を証明します。市街化調整区域指定時(昭和45年10月15日)の申請地所有者と申請者との関係がわかることが必要です。 |
無資産証明書 | 申請者(分家する方)が住宅及び住宅建築な土地を所有していないことを証明します。場合によっては、借家(賃貸アパート等)の賃貸借契約書が必要になります。 |
本家の要件を充たすことを証明する書類
住民票、戸籍謄本 | 本家(贈与者)が市街化調整区域に指定される以前から、その地域に住んでいたことを証明します。 |
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名寄帳など | 本家(贈与者)が市街化区域内に贈与できる土地を所有していないことを証明します。 |
土地の要件を充たすことを証明する書類
土地登記簿謄本・公図の写し | 市街化調整区域指定時(昭和45年10月15日)に、本家がその土地を所有していたことを証明します。 |
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現況平面図 | 建築基準法で求められている接道義務をクリアしていること、その他敷地の状況を確認するための図面です。 |
求積図・境界画定図 | 敷地面積が500㎡以内であることを確認します。その前提として確定測量が必要になることが多いです。 |
土地選定理由書+位置図 | 本家が所有する土地の中で、申請地が最も適していることを証明します。申請地の他にいくつかの候補地を挙げ、比較検討した過程を書面で記します。候補地すべての位置を、地図上に表します。 |
建物の要件を充たすことを証明する書類
専用住宅以外にしない旨の申立書 | 住宅専用として使用すること(店舗などにしないこと)を役所に宣誓します。 |
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建物平面図・立面図・配置図 |
用途、規模、配置が、基準に合致していることを証明します。ちなみに郡山市の床面積の基準は、居宅の面積が280㎡以下、車庫45㎡以下、物置30㎡以下となっています。 |
以上の書類を収集・作成し、添付書類として役所に提出することによって、分家住宅であることの証明がなされることになります。
これらの書類はあくまでも分家住宅の要件に該当することを証明するための添付書類です。農地転用の許可申請や開発許可申請などに通常必要な書類は、これとは別に準備しなければなりません。
市街化調整区域に分家住宅を建てるための手続き
市街化調整区域に分家住宅を建てるための手続きには、開発行為を伴うものと、開発行為を伴わないものに大別することができます。開発行為が伴う場合には、確定測量が必要となるなど、時間と費用がかかりますので手続きの難易度は高いものとなります。
開発許可申請+農地転用申請
開発行為とは、建物の建築を目的とした土地の区画形質の変更のことであり、農地を宅地に変更することは開発行為に該当します。この場合、都市計画法に基づく開発許可(29条許可申請)と、農地法に基づく農地転用(農地法5条申請)の手続きが必要になります。
開発許可の手続きと農地転用許可の手続きは並行して進めていくことになり。先に解説した分家住宅の要件を充たしているとしても、農地転用の許可の見込みがなければ分家住宅は建てられませんので注意が必要です。第1種農地などの優良な農地では、原則として転用が認められません。
また、都市計画法(開発許可)や農地法(農地転用)以外の他法令の許可が必要になる場合があります。代表的なものは、農振法に基づく農用地区域内農地(青地)からの除外申出の手続きです。
建築許可申請(都市計画法43条申請)
一方、市街化調整区域の土地に、開発行為なしで分家住宅を建てる場合には、開発許可の手続きではなく、建築許可という手続きをとることになります。開発行為の必要がない土地とは、次のような条件をすべて満たすような土地になります。
- 見た目(現況)も登記簿上の地目も農地ではなく、宅地となっている
- 土地の面積が、住宅が1軒建つくらいの広さであり、区画の変更を必要としない
- 土地が平坦であり、高さも道路と同じ高さで、造成工事を必要としない
この建築許可(都市計画法43条許可)に基づいて分家住宅を建てる場合には、農地転用の手続きは不要になります。また、建築許可に基づく建物の建築については、開発許可で行われるような事後的なチェック(工事完了検査)はありません。
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