ご存じの方も多いかと思いますが、市街化調整区域においては原則として建築物を建築することはできません。市街化調整区域は、都市計画法によって「市街化を抑制すべき区域」とされているからです。
しかしながら、すべての建築行為が禁止されているわけではありません。開発許可の許可要件である立地基準と技術基準を満たす場合には、開発行為(建築物の建築を目的とした土地の区画形質の変更のこと)が許可されることがあります。そして、開発許可を受けた開発区域においては、許可を受けた建築物の建築ができるようになります。
また、「農林漁業用施設」や「公益上必要な建築物」を建築することを目的とした開発行為は、そもそも開発許可が不要です。ただし、「公益上必要な建築物」に該当するケースは法令に列挙されていますが、一般の事業者がこれに該当するケースはおそらくないものと考えます。
この記事では、市街化調整区域においても開発行為が許可され、建築物の建築が可能になり得るものとして、2つのケースを取り上げて解説いたします。そして、開発許可制度と農地転用の関係についても言及したいと思います。
なお、この記事を作成するにあたっては、福島県の「都市計画法による開発許可制度の手引」を参考にしています。都市計画法の運用は、自治体の条例や審査基準に委任されていることが多いです。ですので、事業地の自治体が公開している手引等も参照いただければと思います。
市街化調整区域での一般住宅の建築(分家住宅の特例)について
さて、大前提として説明しておかなければならないのが、都市計画法で市街化区域と市街化調整区域の「線引き」が行われた理由についてです。
昭和30年代から始まった高度経済成長によって、急速に都市部に人口が流入し、無秩序な土地の開発・住宅等の建築が行われました。その結果起こったのは、上下水道や道路などのインフラの整備が追いつかなかったり、学校などの公共施設の整備が遅れてしまったりといった弊害でした。
インフラの整備や公共施設の建築が後追いになってしまうと、コストの面でも非効率になってしまいます。ですので、市街化区域に住宅等の建築を限定することによって、人口をその地域に集中させる政策を採用したのです。多くの都道府県では、昭和40年代の半ばで「線引き」が行われました。
※「線引き」とは、都市計画区域を市街化区域と市街化調整区域とに分けることを指します。
以上のような都市計画法の趣旨を考えるとお分かりだと思いますが、市街化調整区域の土地を新たに購入して、そこに一般住宅を建築することはできません。ただし、「線引き」がされる前からその地域に土地を所有していた方々については、例外的に一般住宅を建てられる余地が残されています。それがいわゆる「分家住宅」です。
「分家住宅」とは、「線引き」前から市街化調整区域で土地を所有し、継続して生活の本拠としていた世帯員から、土地を譲り受けて建築する一般住宅のことをいいます。
「分家住宅」を建築しようとする土地の譲受人は、土地を譲渡する世帯員の親族(世帯の構成員)であったことが必要とされ、また相続や生前贈与によって土地の所有権を取得しなければなりません。
分家住宅の具体例を解説
例えば、現在30歳の会社員で配偶者と子どもが1人いる方(譲受人)が、市街化調整区域の区域内で、両親と祖父と同居している世帯のことを考えてみましょう。
2人目の子どもが生まれることになると、現在住んでいる住宅では手狭になってしまいます。新しい住宅が必要になったところ、ちょうどいい具合に、現在の住宅の近く(市街化調整区域内)に祖父が所有する土地があったとします。
そこで、譲受人は祖父(譲渡人)から土地の贈与を受け、そこに一般住宅を建築することになりました。これが「分家住宅」の一例です。
※ 分家住宅の要件については、市街化調整区域に分家住宅を建てるための手続きを行政書士が解説 の記事にて詳しく解説しています。
公共公益施設または日常生活のために必要な物品の販売、加工、修理などを営む店舗について
ところで、市街化調整区域においても、その地域で生活している方々がいらっしゃるので、当然その方々の日常生活が不足なく営まれることは保障されなければなりません。
そこで、建築物を建築する場所(開発区域)が市街化調整区域内であったとしても、社会福祉施設や医療施設、そして衣料品店、食料品店、薬局、コンビニエンスストア、食堂、理・美容院などについては、開発許可を受けることで、建築が可能となることがあります。
物品販売などの業務を営む店舗等の建築物の建築のための開発許可の立地基準としては、以下の事項が挙げられています。これらは、都市計画法第34条第1項第1号に基づくもので、具体的な要件は、福島県の手引きによるものとなります。
- 周辺の市街化調整区域の居住者を主なサービス対象とした、日常生活に必要なものであること
- 市街化区域からの距離が道程でおおむね1km以上であること
- 申請地を中心とする半径500mの円を描き、円内に50戸以上の人家(世帯)があること
- 技術基準による幅員以上の国道・県道・市町村道に面していること
- 敷地面積が、おおむね500㎡以内であり、建築物の面積が過大でないこと(駐車スペースを要すると認められる業種にあっては、駐車場が適正に配置されていること)
- 業務の用に供する部分の延床面積が全体の1/2以上であること
- 建築物が、将来にわたって計画される営業に限定して使用されるものであること
以上の基準に該当し、技術基準に問題がなければ、開発許可を受けられる場合があり、その場合は建築物の建築が可能になります。店舗兼住宅でも、住宅部分が1/2未満であれば建築が可能になるため、新たに土地を購入して市街化調整区域に居住することもできることになります。
しかし、あらかじめ計画した事業は継続していかなければならず、事業の変更も認められないことには注意が必要です。
開発許可制度と農地転用の関係について
ところで、市街化調整区域で建築物の建築が可能な平坦な土地は、農地であることが多いです。そして、建築物を建築するために農地を譲り受けるためには、農地転用の許可を受けることが必要になります。
また、農地転用(農地を農地以外のものにする行為)は、開発行為に該当するため、開発許可を受けなければなりません。つまり、多くのケースにおいて、開発許可の申請と農地転用の許可申請は同時に行うことになります。
さらに、農地転用の許可を受けるためには、立地基準と一般基準をクリアする必要がありますが、開発許可での立地基準と農地転用での立地基準は異なりますので、これについても注意が必要です。
すなわち、両方の立地基準をクリアし、それに加えて開発許可における技術基準と農地転用の一般基準を満たすことで初めて、建築物の建築が可能となるということになります。
許認可を必要とする事業を始めようとしている方々へ、行政書士からのメッセージ
解説してきましたように、市街化調整区域において建築物を建築するためには、少なくとも開発許可と農地転用の許可を受けなければならないことが多く、さらに言えば、建築行為については建築基準法が求める要件も満たす必要があります。市街化区域などの他の区域での建築と比べて難易度がかなり高くなることは間違いありません。
福祉事業や医療事業、運送業、産業廃棄物処理業などの許認可を必要とする事業をスタートしようとする場合、建築物(ハコモノ)の新築や改築が必要な場合があります。その場合、建築予定地が市街化調整区域ですと、建築が法律上認められなかったり、許可を受けるまでに多大な時間と費用がかかったりすることが多いです。
これらの事業を始めようとされている事業者様におかれましては、予定地が市街化調整区域かどうかをまず確認することをお勧めいたします。