【相談事例】農地を購入して、新規就農したい

記事更新日:

相談者:新規就農をご希望の方(40代男性)

新たに農業に取り組みたいと考え、土地を探していたところ、福島県内の農地を所有している方と話がまとまりました。農地を購入する際には許可が必要と聞きましたが、具体的にはどのような手続きが必要となるのでしょうか。

回答:行政書士

農地を農地のまま売買したり、貸し借りしたりする場合には、農地法第3条に基づく許可申請を行い、市町村の農業委員会の許可を受けなければなりません。

新規で農業を始めようとする場合、購入した農地のすべてをきちんと耕作するのかどうかが、営農計画書などの書類によって審査されます。その意味では、現に農業に従事している方が農地を広げる(購入する)よりも、審査は厳しくなります。

新規就農で農地を購入する場合、今年(令和5年)3月までは、原則として50a(5,000㎡)以上を購入しなければ許可が下りませんでした。しかし、現在、この下限面積の要件は撤廃されています。この点では、新規就農に対するハードルが下がったといえます。

農地法3条申請が許可されるための要件とは

それでは、農地法3条の許可申請とはどのような手続きなのか。そして、どういう要件をクリアすれば許可が下りるのか。少し具体的にご説明させてください。

農地を売買する場合には、売主と買主が共同で農地法3条許可の申請をします。許可を受けないで行った売買契約は、当事者間での合意があったとしても、法律的な効果が発生しません。ですから、所有権の移転登記もできないことになります。

農地法3条申請の許可がなされ、買主が農地の権利を得るためには、次のような要件をクリアすることが必要となります。売買の当事者は、申請書類の中で、これらの要件を充たすことを証明していくわけです。

1.農地のすべてを効率的に利用して耕作を行うこと

この要件を充たすかどうかは、経営規模や作付けする作物、機械の保有状況、農業に従事する人数・労働力、農業に関する技術などを総合的に勘案して判断することとされています。

農地法3条申請の申請書には、所有する農業機械の種類や数、そして農業に従事する人数を書くところがあります。農地の面積やそこで栽培される作物に対して、機械や人手が適切かどうかの確認がされるのでしょう。

新規就農の場合は、実績の報告ができないわけですから、適切な営農計画書を示すことが重要になるかと思います。

2.農業経営に必要な農作業に常時従事すること

「常時従事」がどれくらいの日数なのかは農林水産省の通知によって示されておりまして、原則年間150日以上とされています。ですので、新規就農の場合には、年間150日以上農作業に従事するという営農計画を作成することになります。

もっとも、栽培する作物によっては、短期間に労働力を集中させ、それ以外の期間は農作業が必要ないという場合もあるでしょう。この場合でも、150日以上の農作業不要であることをきちんと説明できれば許可が下りないわけではありません。

ただし、役所というのは例外を嫌う傾向がありますので、可能であれば150日以上農作業ができる体制をとった方がよいでしょう。農地の整備や農機具の手入れも農作業に該当しますので、これらを含めて営農計画を立ててみてください。

3.地域と調和した農業を行うこと

農業は周辺の自然環境の影響を受けやすく、地域や集落で一体となって取り組まれていることが多いです。ですので、これを阻害するような農地の取得は許可がなされないこととされています。

農林水産省は「農地法関係事務に係る処理基準について」という通知の中で、不許可相当となる具体例を次のように挙げています。

  1. すでに集落営農や経営体により農地が面的にまとまった形で利用されている地域で、その利用を分断するような権利取得
  2. 地域の農業者が一体となって水利調整を行っているような地域で、この水利調整に参加しない営農が行われることにより、他の農業者の農業水利が阻害されるような権利取得
  3. 無農薬や減農薬での付加価値の高い作物の栽培の取組が行われている地域で、農薬使用による栽培が行われることにより、地域でこれまで行われていた無農薬栽培等が事実上困難となるような権利取得
  4. 集落が一体となって特定の品目を生産している地域で、その品目に係る共同防除等の営農活動に支障が生ずるおそれのある権利取得

役所の出す通知は、あくまでも役所内部に限って有効なものですが、農業委員会はこれを判断基準として審査を行います。ですので、実質的にはこれが審査基準だといってもよいでしょう。

また、これらの項目に該当するかどうかは、農業委員会が現地確認をしたり、申請者から聞き取りをしたりして判断することになります。

営農計画書にはどのようなことを書くのか

国は限られた農地を有効に活用するために、農地を所有できるのは原則として農業者のみという方針をとっています。ですから、新たに農業に挑戦しようとする場合、しっかりした営農計画を作成し、農地を所有する資格があることをアピールする必要があります。

申請時に求められる営農計画の記入例が、福島市のHPに掲載されていますので、まずはご確認ください。

※下の画像をクリックするとPDFファイルでで内容を確認することができます。

なお、営農計画書の作成にあたっては、都道府県の普及指導(改良普及)センターに相談することができます。(リンク集:都道府県別普及指導センター

営農の場所、作付する作物、作付面積、単位当たりの収穫量、収支計画などをご自身でお考えかと思いますので、資料を作成したうえで相談に行かれるのも1つの方法だと思います。

そういえば、福島県では、今年(令和5年)4月に、就農相談から定着、経営支援までをワンストップで同じところで実施する施設(「県農業経営・就農支援センター」)がオープンしたばかりです。

この施設は、福島県、JAグループ福島、県農業会議、県農業振興公社の4団体が一体となって運営するもので、約20名の職員が常駐して、それぞれの専門性を生かして就農希望者の相談に応じてくれるようです。

もちろん、営農計画書の作成を含めた農地法3条許可申請の書類の作成は、行政書士の業務ですので、私にご依頼いただければ誠実に取り組ませていただきます。

まとめ

今回は、個人事業として農業に参入する場合の手続きについてのご相談でした。新規就農のために土地を購入するための許可の要件について解説しましたが、ご理解いただけたでしょうか。

ところで、法人が農業に参入する場合の農地の売買や貸し借りについても、農地法3条の許可が必要になりますが、許可の要件については違いがあります。別に詳しく解説しますが、法人が農地を購入するためには「農地所有適格法人」の要件を充たす必要があります。

なお、今年(令和5年)の4月1日からは、農地所有の下限面積の要件が撤廃されています。そして、9月1日からは、自治体が国に申請することによって、農地所有適格法人以外の法人(企業)が農地を所有できるようになる法改正が施行されます。(構造改革特別区域法第24条による)

企業の農地取得、全国の自治体が申請可能に 国審査残す(日本経済新聞より)

農業にチャレンジしようとする意欲のある方々にとって、参入障壁が低くなっているといえるでしょう。

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