農地を所有できる農地所有適格法人の要件を行政書士が解説

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法人として農業を営む方法としては、農地を所有して耕作する方法と農地を借りて耕作する方法の2種類があります。そして、いずれの方法を採るにせよ、農地法で定められている要件を満たす必要があります。

法人が農地を所有するためには、農地法第2条第3項で規定する「農地所有適格法人」の要件を充たす必要があります。また、農地所有適格法人以外の法人が農地を借りるためには、農地法第3条第3項の要件をクリアすることが求められます。

法人が農地を取得または賃借するための障壁は、個人(世帯)単位よりも高く、法令によって特別な定めが設けられています。そして、法人が農地を取得または賃借できるようになったのは、平成21年以降という最近のことになります。

それでは、法人による農業経営を困難にしてきたのは、いったいどのような理由からなのでしょうか。また、法人が農地を買ったり借りたりするためには、どのような要件を満たさなければならないのでしょうか。

遊休農地の増加による自作農主義からの政策転換

そもそも日本の農政は、戦後のGHQの占領政策の影響の下、自作農主義を採用してきました。戦前は大地主と小作人という封建的な体制で営まれていた農業は、農地改革により、世帯単位で営まれるようになりました。たくさんの自作農が創出されたことになります。農地法においても、昭和27年の制定以来、「耕作者自らが農地を所有することを最も適当である」としてきました。

しかし、高度経済成長の中で、国内の産業構造は第2次産業が中心となり、都市部に人口が流入していきます。また、自動車などの工業製品を海外に輸出するのと引き換えに、多くの農産物を海外から輸入することで賄う政策を採用しました。

さらに、日本人の食生活の西洋化が進行し、主食であるお米の需要が減少していきます。そのため、政府は減反政策を進め、農村から田んぼが次々と消滅していきました。このような時代の流れの中で、農家の所得は低下していきます。農家の高齢化と離農が進行し、遊休農地が増加しているのが現状です。

そこで、政府は、地域における重要な資源である農地を効率的に利用し、食料自給率の向上を図るため、自作農主義から脱却し、法人による農地の利用を認める政策転換をしました。経営規模の拡大や経営の効率化を促し、農業を活性化しようとしたのだと考えられます。

農地所有適格法人の形態(会社法人と農事組合法人)について解説

農地所有適格法人は、所有権や賃借権などの農地の権利を取得できる法人のことを言います。そしてこれは、会社法人農事組合法人に大別することができます。会社法人とは会社法を根拠とする法人で、農事組合法人は農業協同組合法を根拠とする法人です。

会社法人とは、営利(利益を上げること)を目的とする法人で、その多くは株式会社という形態を採用しています。株式会社は、株式を発行することで出資者(株主)から資金を調達し、取締役が日常の業務を執り行い、その利益は株主に分配される仕組みを持ちます。

また、会社の経営に関する重大な決定は、株主総会において、株式数に応じた議決権の行使を前提として決議がなされます。会社の所有者(オーナー)は株主で、業務執行者が取締役というのが株式会社の特徴です。

これを「所有と経営の分離」と呼ぶことがありますが、中小企業の多くは経営者やその家族が株主となっているのが現実です。なお、株式会社で農地所有適格法人となれるのは、すべての株式に譲渡制限がある会社に限られています。

これに対して、農事組合法人は、農業生産を協業することによって、共同の利益の増進を目的とする法人です。このため、構成員の公平性が重視されており、議決権は1人1票となっています。また、構成員が3人以上必要であることもその特徴です。

農事組合法人は、農業生産の協業を目的とする法人ですので、株式会社と比較して、できることがかなり限定されており、以下の事業しかできません。

1. 農業に係る共同利用施設の設置(当該施設を利用して行う組合員の生産する物資の運搬、加工または貯蔵の事業を含む。)または農作業の共同化に関する事業
2. 農業の経営(その行う農業に関連する事業であって農畜産物を原料または材料として使用する製造または加工その他農林水産省令で定めるもの及び農業と併せて行う林業の経営を含む。)
3. 前2号の事業に付帯する事業
(農業協同組合法第72条の10より)

なお、第2号のその他農林水産省令で定めるものとは次のものになります。

  • 農畜産物の貯蔵、運搬または販売
  • 農畜産物若しくは林産物を変換して得られる電気または農畜産物若しくは林産物を熱源とする熱の供給
  • 農業生産に必要な資材の製造
  • 農作業の受託
  • 農村滞在型余暇活動に利用されることを目的とする施設の設置及び運営
  • 農村滞在型余暇活動を行う者を宿泊させること等農村滞在型余暇活動に必要な役務の提供
  • 農地に支柱を立てて設置する太陽光を電気に変換する設備の下で耕作を行う場合における当該設備による電気の供給

会社法人の場合、定款で定めた事業目的の範囲であれば、原則として制限がなく営業することができます。このため、農業に関係しない事業も行うという場合には、会社法人の形態を採らなければなりません。

農地所有適格法人の要件について解説

ここからは、農地法で定められている農地所有適格法人の要件について解説していきます。農地所有適格法人と認められ、農地の所有権を取得するためには、前述した①法人形態要件の他に、②事業要件、③議決権要件、④役員要件のすべてを満たしていなければなりません。

②事業要件、③議決権要件、④役員要件は、ほとんどの場合、農事組合法人については自動的に満たされているはずです。そのため。株式会社などの会社法人についてのみ、要件該当性の検討が必要になります。

①法人形態要件(農地法第2条第3項柱書)

繰り返しになりますが、農地所有適格法人の要件を満たすためには、その法人が会社法人か農事組合法人でなければなりません。また、株式会社が要件を満たすためには、すべての株式に譲渡制限がつけられている非公開会社でなければなりません。

ということは、公開会社である株式会社、NPO法人、一般社団法人、宗教法人、学校法人などは農地所有適格法人になることはできないことになります。

②事業要件(農地法第2条第3項第1号)

農地所有適格法人と認められるには、その法人の主たる事業が農業または農業関連事業でなければなりません。

農林水産省の通達によれば、主たる事業かどうかは、直近3年間における農業・農業関連事業の売上高が、法人の事業全体の売上高の50%を超えているかどうかで判断することとされています。

また、農業経営の実績がなく、これから新規に要件を満たそうとする場合は、今後3年間の事業計画に基づいて判断されることになります。経営計画・営農計画の妥当性が問われます。

③議決権要件(農地法第2条第3項第2号)

農地所有適格法人の要件を満たすためには、株式会社においては議決権の過半数の株式を農業関係者が保有していなければならず、持分会社においては、社員の過半数が農業関係者でなければなりません。

ここでいう農業関係者とは、以下の範囲になります。

  • 農地の権利提供者(農地の売主や貸主)
  • 農作業委託農家(法人に農作業を委託する個人)
  • 農業の常時従業者(原則として年間150日以上農業に従事する者)

④役員要件(農地法第2条第3項第3号)

最後に法人の役員についての要件です。農地所有適格法人として農地を所有するためには、次の2つの要件に該当することが必要です。

  • 役員の過半数が農業(販売・加工も含む)に常時従事(原則、年間150日以上)する者であること
  • 役員または重要な使用人(農場長など)のうち、1人以上が農作業に従事(原則、年間60日以上)すること

また、農林水産省の通達によれば、その法人の代表者(代表取締役など)は、農業が営まれている地域に居住し、そこで行われる農業に常時従事する者であることが望ましいとされています。

農地所有適格法人の報告義務と要件を満たさなくなった場合の行政の対応

ところで、農地所有適格法人に該当するかどうかの審査は、単独で行われるものではなく、農地法3条許可申請に付随して行われます。つまり、農地を購入しようとするタイミングで、要件を満たしているかどうかの確認がなされるわけです。

また、農地適格法人として農地を所有し、その農地で農業経営を継続するためには、農地所有適格法人の要件を満たし続けることが必要です。継続的に要件を満たしているかどうかの確認は、主に毎事業年度終了後の農業委員会への報告書によってなされることになります。

農地所有適格法人の報告(農地法第6条)

農地所有適格法人は、毎事業年度終了後3か月以内に、事業の状況その他農地法施行規則第59条で定める事項を農業委員会に報告しなければなりません。この報告書をもとに、農業委員会は、農地所有適格法人が所有する農地で適切な営農が営まれているかどうかを確認します。必要に応じて立ち入り検査を行うこともあります。

その結果、農地所有適格法人が第2条第3項各号にかかげる要件を満たさなくなるおそれがあると認めるときは、その法人に対し、必要な措置をとるべきことを勧告することができることとされています。

そして、勧告をした場合に、勧告を受けた法人から所有する農地についての所有権の譲渡の申出があったときは、農業委員会はその農地の所有権の譲渡についてのあっせんに努めなければならないと規定されています。

農地所有適格法人が要件を満たさなくなった場合(農地法第7条)

農地所有適格法人が農地所有適格法人でなくなった場合、その農地を引き受ける者がいない場合には、最終的に国が買い取ることになります。ただし、要件を満たさなくなったらすぐに買い取りなどの手続きに進むわけではなく、一定の猶予が与えられます。

※ 以下「農地法関係事務に係る処理基準について」(平成12年6月1日付農林水産省事務次官)からの引用です。

農地所有適格法人でなくなったかについては、ある特定の時点をとらえて判断するのではなく、農地所有適格法人の要件を再び充足することが困難であり、当該要件を欠いた状態のまま、農地等を所有し、又は利用し続けると認められるかによって判断するものとする。

事業年度終了後の報告書が提出された時点で要件を満たさなかったとしても、すぐに「農地所有適格法人ではなくなった」とはみなさないという運用がされていることが分かります。

したがって、理事等のうちその法人の常時従事者たる構成員が占める割合が一時的に過半でなくなった場合等、農業生産法人の要件を再び充足すると見込まれる場合は、農地所有適格法人でなくなった場合との取扱いは行わないものとする。

ここでは、要件③の議決権要件が一時的に満たさない状態にあったとしても、改善の見込みがあれば「農地所有適格法人ではなくなった」という扱いはしないことが書かれています。

農地所有適格法人以外の法人が農業に参入する方法とは

これまで解説してきた農地所有適格法人の要件を満たさない法人、例えば農業関連の売上高が50%を超えない株式会社などが農業経営を始めようとする場合には、原則として、農地を借りて営むことになります。

農地を借りる方法としては、使用貸借権を取得する方法と、賃借権を設定する方法とがあります。使用貸借権も賃借権も農地を使用する権利である点は共通ですが、賃料を支払うかどうかに違いがあります。前者は無償で後者は有償となります。

さて、法人が農地を借りるためには、農地法第3条第3項で規定されている要件を満たさなければなりません。いったいどのような要件なのでしょうか。条文を読みながら1つひとつ確認していきましょう。

これらの権利を取得しようとする者がその取得後においてその農地または採草放牧地を適正に利用していないと認められる場合に使用貸借または賃貸借の解除をする旨の条件が書面による契約において付されていること(第1号)

ここで示されているのは、農地を適正に利用していない場合には、使用貸借、賃貸借の契約がキャンセルされるということです。法人が農地を借りる場合、毎年、農地の利用状況を農業委員会に報告する義務があります。

農地を借りているのに耕作がなされていない場合などは、この規定によって契約が解除されることになります。

これらの権利を取得しようとする者が地域の農業における他の農業者との適切な役割分担の下に継続的かつ安定的に農業経営を行うと見込まれること(第2号)

ここでいう「適切な役割分担の下に」とは、例えば、農業の維持発展に関する話し合い活動への参加、農道、水路、ため池などの共同利用施設の取り決めの遵守、獣害被害対策への協力などを指すものとされています。

この要件を満たすためには、誓約書の提出や、農業委員会と協定を結ぶなどの具体的なアクションをすることが必要です。また、継続的かつ安定的な農業経営の見込みがあるかどうかについては、新規参入のケースでは営農計画書によって判断されることになるでしょう。

その法人の業務を執行する役員または農林水産省令で定める使用人のうち、1人以上の者がその法人の行う耕作または養畜の事業に常時従事すると認められること(第3号)

この要件にある「耕作または畜産の事業」とは、農作業に限定されるものではなく、営農計画の作成やマーケティングなどの経営企画業務や管理業務も含まれます。また、常時従事とは年間150日以上とされています。

農業経営の法人化、法人による農業への参入をお考えの方へ

法人が農地の権利を取得し、農業経営をしようとする際には、農地所有適格法人の要件を備えなければなりませんが、要件に該当しているかどうかの判断は、実際に農地を取得する際の農地法3条申請に付随して行われます。

農地所有適格法人に該当するかどうかの審査の申請を、任意の時期にできるわけではありません。この点については、勘違いされている方がいらっしゃるようなので注意が必要です。要するに、農地を取得するタイミングで要件を満たす必要があるわけです。

また、新規に法人を設立し、農業に参入するためには、定款をどのように作成するかがとても重要になります。農業に対する意欲をお持ちの方が会社を設立する際には、農地法に詳しい行政書士に相談することをお勧めします。

※個人事業として農業に新規参入したいとお考えの方は、【相談事例】農地を購入して、新規就農したい の記事をご一読ください。最後までお読みいただきありがとうございました。

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